恋海 ALLキャラ
□なんてことない日常
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暗い夜の道を、ハヤテさん、シンさん、リュウガ船長と並んで歩く。
酒場からシリウス号までと帰る道のりは、決して明るいものではなかった。
人通りはほとんどなく、暗い夜道を照らしてくれる光は、ほんとに数えるほどしか存在しない。
シンさんが持つ、持ち運び式のランプだけが、ほとんどこの道を歩くための唯一の助けだと言えた。
☆☆
「…なかなか、ソウシさんたちと合流しませんね」
リュウガ
「あー、あいつらもそろそろ準備が終わったと思うんだがな」
ソウシさん、ナギさん、トワくんの3人は、一足先に酒場を出て、船の出港準備をしてくると言っていた。
そして準備が終わったあと、私たちと合流する予定ではいるけれど…。
ハヤテ
「そんな焦んなくても、そのうち会えるだろ」
シン
「あの3人は、捕まるようなドジはしないはずだ」
☆☆
「…そう、ですけど」
ハヤテさんとシンさんが、私の不安をなくすように、淡々と話す。
仲間の信頼があるからこその、この言葉。
私だって、3人の事は信頼してる。
ソウシさんもナギさんもトワくんも、みんな強いから。
たとえ何かあったとしても、そう簡単にやられる人たちじゃない。
それでも長く続くこの暗い道が、消そうとしている不安を完全に消し去ってくれない。
ハヤテ
「ん?何か声が聞こえないか?」
☆☆
「え…?」
リュウガ
「足音もあるな…あいつらか?」
ハヤテさんと船長の言葉に、じっと耳をすます。
微かに耳に届く音は、誰かの話し声と足音だった。
俯きかかっていた、顔をバッと上げる。
そのまま声と足音がする方に向かって、私は一人走り出した。
ハヤテ
「おい!☆☆!」
後ろから、ハヤテさんが私を呼ぶ声が聞こえた。
それを無視して、走り続ける。
角を曲がった先に、見知った影が3つあった。
☆☆
「ソウシさん!ナギさん!トワくん!」
手を振りながら名前を呼び、走り寄る。
3人の元に無事到着した私は、勢い余ってナギさんの腕の中に倒れ込んでしまった。
ナギ
「…おい、大丈夫か?」
少し驚いたナギさんの声が、頭上から届く。
パッと身体を離して、深く頭を下げた。
☆☆
「す、すみません…!ナギさんに迷惑を…」
ナギ
「気にするな」
顔を上げると、ナギさんが優しく笑いながら、私の頭を撫でる。
撫でられていることに恥ずかしくなって、少しだけ俯いた。
ソウシ
「☆☆ちゃん、他の3人は?」
トワ
「一緒に来たんじゃないんですか?」
☆☆
「あ、えっと、ハヤテさんたちは…」
ハヤテ
「おーい!」
言いかけた時、後ろの方からハヤテさんの声が聞こえた。
振り向くと、ハヤテさんを先頭に、シンさん、リュウガ船長の3人がこちらに向かって歩いてくる。
ソウシ
「はぐれたわけではなかったんだね」
トワ
「びっくりしましたよ!☆☆さんだけしか姿がないから…」
近づいてくる3人に、ソウシさんとトワ君が話しかける。
二人の言葉を聞いて、シンさんが静かに口を開いた。
シン
「こいつ、ドクターたちが心配で、声が聞こえた瞬間、急に走り出したんですよ」
ハヤテ
「こっちは追いかけるの大変だったのによ」
リュウガ
「ハッハッ!まぁ、仲間思いは良いことだ!」
船長の笑い声が、夜の闇に響く。
納得したように、ソウシさんたちは頷いた。
ソウシ
「それで☆☆ちゃん、勢い余ってナギに倒れ込んだんだね」
ナギ
「…勢い余りすぎだろ」
ハヤテ
「はぁ!?お前ナギ兄に抱きついたのかよ!?」
☆☆
「ち、違います!転倒しそうになった私を、ナギさんが受け止めてくれただけで…!」
シン
「お前はもう少し落ち着いて行動しろ。…ったく、俺以外に抱きつくな」
ソウシ
「どうせなら私に抱きついてくれればよかったのに…。☆☆ちゃんなら、いつでも大歓迎だよ?」
トワ
「…僕が☆☆さんを受け止めたかったな」
ハヤテ
「…あん時、すぐに追いかけりゃよかった」
ナギ
「……」
リュウガ
「☆☆!試しに俺にも抱きついてみろ!抱き心地を確かめる!!」
シン
「船長、それセクハラです」
リュウガ
「なぜ俺だけセクハラ扱いする!?」
私の必死の弁解の言葉は、むなしくも宙へと消える。
怒鳴り声だったり笑い声だったり、思わず赤面してしまうような言葉だったり…。
私に与えられた言葉は、実に様々なものだった。
あたふたし始める私をよそに、みんながそれでもなお、話し続ける。
いてもたってもいられなくなった私は、思わずその場を駆け出し、近くの隅に隠れた。
リュウガ
「ハッハッ!姫さんが逃げちまったな!」
シン
「船長が☆☆にセクハラ発言するからですよ」
ナギ
「…いずれセクハラで捕まりますよ」
ハヤテ
「うわぁ、そんなことで捕まる船長、俺嫌だ」
トワ
「ぼ、僕だって嫌です!」
リュウガ
「おい!勝手に変なことばっかり言うな!俺はあいつにセクハラ発言なんてしてねぇぞ!!」
ソウシ
「船長が変態でセクハラな行動や発言をするのは、今に始まったことじゃないよ、みんな。そんなことより、☆☆ちゃんを迎えに行こう。恥ずかしがって、角に隠れちゃったよ」
リュウガ
「俺の訴えは無視か!?」
みんなの話し声が、どんどん近くなってくる。
私は膝を抱えて座り込んだまま、静かにそれを聞いていた。
トワ
「あ!☆☆さん見つけました!」
ぴょこっと顔を出したトワくんが、嬉しそうに笑いながら声を上げる。
それに続くように、他のみんなも顔を出した。
ジリッ…と、一歩後ずさる。
警戒した犬のように、私は上目使いで睨むようにみんなを見た。
リュウガ
「うちの姫さんは、随分とご機嫌ななめだな」
ソウシ
「☆☆ちゃん、帰ろう?」
シン
「なんなら、おんぶして帰ってやってもいいぞ?」
ハヤテ
「なっ!シンはダメだ!☆☆!俺がおんぶして連れて帰ってやる!」
ナギ
「シンもハヤテも却下だ。俺がする」
トワ
「僕だって、☆☆さんをおんぶするぐらいできます!」
ソウシ
「ふふっ、私の背中に乗ってもいいよ。☆☆ちゃん」
リュウガ
「俺でもいいぞ、☆☆!というか俺にしとけ!」
シン
「船長、だからそれはセクハラ…」
リュウガ
「まだ言うか!?」
船長の言葉に、みんながドッと笑う。
そして急に真剣な目をして、私の方にみんなが手を差しのべた。
ハヤテ
「☆☆、帰るぞ」
シン
「☆☆、早くしろ」
ソウシ
「帰ろう?☆☆ちゃん」
ナギ
「☆☆、行くぞ」
トワ
「帰りましょう!☆☆さん」
リュウガ
「帰るぞ、☆☆!」
みんなの言葉を聞き、順々に差し出された手を見る。
私はそっと、その中から"彼"の手を掴んだ。
一瞬驚いた顔をした"彼"が、すぐに小さく、優しく笑いかける。
そのまま、しゃがみ込んだ背中に乗り込み、ぎゅっと"彼"にしがみついた。
ユラユラと揺れた感覚と、"彼"の温かい体温に眠気が襲う。
みんなの話し声を聞きながら、静かにそのまま眠りについた。
その時に見た夢は、シリウスのみんなと過ごす、なんてことないいつもの日常だった。
→あとがき