たとえ君が…

□無人島の宴
1ページ/2ページ









森の中は、緑が鬱蒼と生い茂っていた。

巨大に成長した木が何本も立ち、緑色のツルが、木と木をつなぐようにぶら下がっている。

グリュンと渦を巻いた植物を始め、虹色をした花、鋭く光る棘を持ち合わせた実など、今まで見たことのないものが、あちこちに存在していた。

手入れの行き届いてないこの場所は、ジャングルと名付けてしまうのが一番妥当かもしれない。

私はひとりでに、そんなことを思いながら森の中を見渡し、歩いていた。

見渡すと言っても、勿論二人を見失わないように、そして足元にも気をつけながらだ。

二人の足手まといにならないよう、足元に気をつけながら、慎重に森の奥へと進んでいく。

と言っても、慣れない森の中、ましてや手入れの行き届いていないこの場所は、私にとってはとても歩きづらい場所だった。

二人との距離は、縮まるどころか、どんどん広がる一方。

置いて行かれぬようにと、前を歩く二人に、少し小走りになりながらついていっていると、二人が急に足を止めた。

何かあったのかなと、少し首を傾げながら、私も足を止める。

とそこで、視界に大きな何かが飛び込んできた。

☆☆
「…この木、すごく大きい……」

目の前に立つのは巨大な木だった。

私たち三人が手を広げ木の幹を囲んでも、足りない程だった。

恐らく、みんなを連れてきて七人になったとしても足りないかもしれない。

茫然となりながら、巨大な木を見上げる。

天まで届くのではないかと思わせるそれは、見上げているだけで、首が痛くなってくるほどだった。

シン
「この辺で採るとするか」

ハヤテ
「そうだな。この辺りのものなら、大抵のは食べれるだろ」

二人の話し声が聞こえ、私は慌てて、また少し離れた場所にいってしまっていた二人の元へ駆け寄った。

ハヤテ
「いいか、☆☆。この辺りになってる果実なら大抵のもんは食える。だからって、味見なんてするんじゃねぇぞ?」

☆☆
「は、はい!」

シン
「いっぱい取るのはいいが、見るからに怪しい実などはやめておけ。わからなくなったら、俺かハヤテが近くにいる。声をかけろ」

ハヤテ
「俺たちの目の届く範囲にいろよ」

☆☆
「はい、わかりました!」

笑顔で答えると、二人は早速近くの木になる果実を取りに行く。

森に入る前に渡されたかごの中に、二人が食べられる果実を選んで入れていく。

その様子を少しだけ見つめてから、私も果実採りに足を向けた。

オレンジ色の実がなる木に近づき、一個だけもぎ取ってみる。

幸い、木が低かったため、私でも余裕で届くものだった。

☆☆
「これなら、食べられそうかも…」

軽く匂いを嗅ぐと、ほんのり甘い匂いがした。

頷いて、その実を一個かごに入れる。

それから、とれる数の分だけ、実を取ってかごに入れた。

☆☆
「えっと、次は…」

キョロキョロと辺りを見渡し、自分でも取れそうな位置になる実を探す。

けれど辺りにあるほとんどの実が、私の背丈では足りない高さに実っていた。

☆☆
「うーん、どれも採れそうにないな…何かないかな……あれ?」

悩んでいたその瞬間、どこからか甘い香りが漂ってきた。

そこでふと、近くの足元に、綺麗な赤い実がなっていることに気がつく。

☆☆
「あ、この匂いだ…これも食べられるのかな?」

鼻を近づけ、実の匂いを嗅ぐ。

甘い匂いを漂わせるその実は、見た目だけでも香りだけでも、十分に美味しそうだった。

そっと果実に手を伸ばす。

と、次の瞬間、頭の中が真っ白になり、思考が閉ざされた。

☆☆
(あれ…?何……?なんか、私……)

まるで何者かに操られたように、身体が言うことを聞かなくなった。

声を出し、助けを呼ぼうとした時、そこで一度、頭の中の記憶が飛んだ。

いつの間にか閉じていた目をゆっくり開けると、私の身体はいつも通り、自分の意思で動き、思考も戻っていた。

☆☆
(今、私、何をしてたの?)

数秒前の自分の行動が思い出せなくて、首を傾げる。

目の前には、綺麗な赤い色をした実がなる植物があった。

☆☆
「あ、これ…」

ハヤテ
「おーい、☆☆!そろそろ行くぞ!」

赤い実に手を伸ばしたその時、後ろの方からハヤテさんの声が聞こえる。

伸ばしかけていた手を引っ込め、私は近くに置いてあったかごを手に、その場を離れた。

シン
「何か収穫はあったか?」

☆☆
「はい。と言っても、私の背丈じゃ届かないものばかりで、これしかないんですけど…」

駆け寄った私に、シンさんが問いかける。

さり気なく二人のカゴを覗き込むと、この短時間の間に二人は、かごから溢れんばかりの量の果実を採っていた。

驚きながらも、私は持っていたかごの中に入っている果実を、シンさんに見せた。

一瞬静かにかごの中身を見つめたあと、シンさんが顔をあげ、私を見る。

じっと見つめられ、怒られるのかと覚悟した瞬間、頭を優しく撫でられた。

シン
「お前にしては、上出来だ」

☆☆
「…あ、ありがとうございます」

俯いてお礼を言う。

と、持っていたかごが、私の手からスルリとなくなった。

☆☆
「え…?」

ハヤテ
「俺が持ってやる。重いだろ?」

☆☆
「そんな、そのくらいの量なら、私が…」

シン
「単細胞バカが持つといっているんだ。素直に聞いておけ」

ハヤテ
「おい!誰が単細胞バカだよ!」

シン
「お前のことだ、バカ猿ハヤテ」

ハヤテ
「なんだとー!!」

実を採れたことに安堵してか、ふたりがいつもの喧嘩を始めた。

口喧嘩をしながら、それでも、私の歩みに合わせるように歩いて行く二人。

喧嘩をしながらも、私を気にかけてくれていることに嬉しくなり、私は二人に気づかれないようにそっと小さく笑った。

それから、少しだけ小走りになって、二人の後を追う。

どこからか甘い香りが鼻孔をくすぐり、口の中に、何かを噛み潰した感触が伝わった気がした。




→続く
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ