たとえ君が…
□無人島の宴
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森の中は、緑が鬱蒼と生い茂っていた。
巨大に成長した木が何本も立ち、緑色のツルが、木と木をつなぐようにぶら下がっている。
グリュンと渦を巻いた植物を始め、虹色をした花、鋭く光る棘を持ち合わせた実など、今まで見たことのないものが、あちこちに存在していた。
手入れの行き届いてないこの場所は、ジャングルと名付けてしまうのが一番妥当かもしれない。
私はひとりでに、そんなことを思いながら森の中を見渡し、歩いていた。
見渡すと言っても、勿論二人を見失わないように、そして足元にも気をつけながらだ。
二人の足手まといにならないよう、足元に気をつけながら、慎重に森の奥へと進んでいく。
と言っても、慣れない森の中、ましてや手入れの行き届いていないこの場所は、私にとってはとても歩きづらい場所だった。
二人との距離は、縮まるどころか、どんどん広がる一方。
置いて行かれぬようにと、前を歩く二人に、少し小走りになりながらついていっていると、二人が急に足を止めた。
何かあったのかなと、少し首を傾げながら、私も足を止める。
とそこで、視界に大きな何かが飛び込んできた。
☆☆
「…この木、すごく大きい……」
目の前に立つのは巨大な木だった。
私たち三人が手を広げ木の幹を囲んでも、足りない程だった。
恐らく、みんなを連れてきて七人になったとしても足りないかもしれない。
茫然となりながら、巨大な木を見上げる。
天まで届くのではないかと思わせるそれは、見上げているだけで、首が痛くなってくるほどだった。
シン
「この辺で採るとするか」
ハヤテ
「そうだな。この辺りのものなら、大抵のは食べれるだろ」
二人の話し声が聞こえ、私は慌てて、また少し離れた場所にいってしまっていた二人の元へ駆け寄った。
ハヤテ
「いいか、☆☆。この辺りになってる果実なら大抵のもんは食える。だからって、味見なんてするんじゃねぇぞ?」
☆☆
「は、はい!」
シン
「いっぱい取るのはいいが、見るからに怪しい実などはやめておけ。わからなくなったら、俺かハヤテが近くにいる。声をかけろ」
ハヤテ
「俺たちの目の届く範囲にいろよ」
☆☆
「はい、わかりました!」
笑顔で答えると、二人は早速近くの木になる果実を取りに行く。
森に入る前に渡されたかごの中に、二人が食べられる果実を選んで入れていく。
その様子を少しだけ見つめてから、私も果実採りに足を向けた。
オレンジ色の実がなる木に近づき、一個だけもぎ取ってみる。
幸い、木が低かったため、私でも余裕で届くものだった。
☆☆
「これなら、食べられそうかも…」
軽く匂いを嗅ぐと、ほんのり甘い匂いがした。
頷いて、その実を一個かごに入れる。
それから、とれる数の分だけ、実を取ってかごに入れた。
☆☆
「えっと、次は…」
キョロキョロと辺りを見渡し、自分でも取れそうな位置になる実を探す。
けれど辺りにあるほとんどの実が、私の背丈では足りない高さに実っていた。
☆☆
「うーん、どれも採れそうにないな…何かないかな……あれ?」
悩んでいたその瞬間、どこからか甘い香りが漂ってきた。
そこでふと、近くの足元に、綺麗な赤い実がなっていることに気がつく。
☆☆
「あ、この匂いだ…これも食べられるのかな?」
鼻を近づけ、実の匂いを嗅ぐ。
甘い匂いを漂わせるその実は、見た目だけでも香りだけでも、十分に美味しそうだった。
そっと果実に手を伸ばす。
と、次の瞬間、頭の中が真っ白になり、思考が閉ざされた。
☆☆
(あれ…?何……?なんか、私……)
まるで何者かに操られたように、身体が言うことを聞かなくなった。
声を出し、助けを呼ぼうとした時、そこで一度、頭の中の記憶が飛んだ。
いつの間にか閉じていた目をゆっくり開けると、私の身体はいつも通り、自分の意思で動き、思考も戻っていた。
☆☆
(今、私、何をしてたの?)
数秒前の自分の行動が思い出せなくて、首を傾げる。
目の前には、綺麗な赤い色をした実がなる植物があった。
☆☆
「あ、これ…」
ハヤテ
「おーい、☆☆!そろそろ行くぞ!」
赤い実に手を伸ばしたその時、後ろの方からハヤテさんの声が聞こえる。
伸ばしかけていた手を引っ込め、私は近くに置いてあったかごを手に、その場を離れた。
シン
「何か収穫はあったか?」
☆☆
「はい。と言っても、私の背丈じゃ届かないものばかりで、これしかないんですけど…」
駆け寄った私に、シンさんが問いかける。
さり気なく二人のカゴを覗き込むと、この短時間の間に二人は、かごから溢れんばかりの量の果実を採っていた。
驚きながらも、私は持っていたかごの中に入っている果実を、シンさんに見せた。
一瞬静かにかごの中身を見つめたあと、シンさんが顔をあげ、私を見る。
じっと見つめられ、怒られるのかと覚悟した瞬間、頭を優しく撫でられた。
シン
「お前にしては、上出来だ」
☆☆
「…あ、ありがとうございます」
俯いてお礼を言う。
と、持っていたかごが、私の手からスルリとなくなった。
☆☆
「え…?」
ハヤテ
「俺が持ってやる。重いだろ?」
☆☆
「そんな、そのくらいの量なら、私が…」
シン
「単細胞バカが持つといっているんだ。素直に聞いておけ」
ハヤテ
「おい!誰が単細胞バカだよ!」
シン
「お前のことだ、バカ猿ハヤテ」
ハヤテ
「なんだとー!!」
実を採れたことに安堵してか、ふたりがいつもの喧嘩を始めた。
口喧嘩をしながら、それでも、私の歩みに合わせるように歩いて行く二人。
喧嘩をしながらも、私を気にかけてくれていることに嬉しくなり、私は二人に気づかれないようにそっと小さく笑った。
それから、少しだけ小走りになって、二人の後を追う。
どこからか甘い香りが鼻孔をくすぐり、口の中に、何かを噛み潰した感触が伝わった気がした。
→続く