たとえ君が…
□無人島
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視界が一瞬で、真っ白になった。
風に煽られたベッドシーツが、私の目の前を、いったりきたりとする。
時折吹く風は、とても心地よく、涼しいものだった。
☆☆
「トワくーん!洗濯物、もう大丈夫みたいだよー!」
干したベッドシーツに手を振れながら、濡れ具合を確認する。
ちょうどよく乾いたシーツからは、洗うときに使った石鹸の香りがした。
いつもよりフワッとしたシーツの手触りが、触れた手の感触から伝わってきた。
トワ
「あ、本当ですか?じゃあ、二人でとりこんじゃいましょうか!」
ニコッと笑顔を浮かべたトワくんが、甲板の隅から走ってくる。
手には船の修理道具が入った赤い箱が握られていた。
☆☆
「さっき見つけた板の部分、修理終わったの?」
トワ
「はい!もう安心して歩いていいですよ!」
甲板の隅。
そこにあったのは、板から勢いよく突き出された、一本の釘だった。
運悪くそこを通った私は、それを踏みつけ、軽いけがを負ってしまった。
そこで、船長に話した結果、私が医務室で怪我の手当をしてもらう間、トワくんは板の修理を任されたのだった。
トワ
「☆☆さん、足大丈夫ですか?痛くないです?」
☆☆
「全然大丈夫だよ。ほんとに軽いケガだし、そんなに心配しないで」
トワ
「でも…僕がもっと早く気がついていれば……いつもあのあたりは、僕が掃除をしているのに……」
チラッと甲板の隅をトワくんが見つめた。
シュンッと落ち込んだトワくんが、頭を下げ俯く。
それはまるで、小さな子動物のようだった。
そんなトワくんに、私は優しく笑いながら声をかけた。
☆☆
「ほんとに大丈夫だよ。トワくんのせいじゃないんだから…私が、暑いからって足に水を浴びて、そのまま裸足でいたのが悪いんだもん」
トワ
「でも…」
☆☆
「もう、そんなに落ち込むなら……」
トワ
「?」
笑顔で答えながらも、それでも自分が悪いと言うように頭を下げるトワくん。
そんなトワくんを見て、ハッと何かを思い出す。
そして、私はひとりで小さく笑いながら、トワくんに声をかけた。
私の言葉に、トワくんが不思議そうに顔をあげる。
その瞬間を、私は見逃さなかった。
すかさず、トワくんのおでこを、軽く指で叩く。
パチンッと乾いた音が、辺りに微かに響いた。
小さく笑いながらトワくんを見ると、トワくんは呆然と私を見つめていた。
そしてその後、いつもの優しくて明るい笑みを浮かべる。
☆☆
「ふふっ、やっと笑ったね、トワくん」
トワ
「だって、☆☆さんが……」
☆☆
「うん、トワくんはそうやって笑ってるのが一番だよ。ほら、洗濯物、取り込んじゃおう?もうそろそろ島に着くって、シンさんも言ってたし」
トワ
「はい!」
二人で手分けしてシーツを取り込む。
甲板に、パタパタと洗濯物をはたく音が響いた。
二人で協力して、畳み込んだシーツを、かごの中に崩れないようにいれる。
全部を畳み終えたあと、かごを持ちあげようとする私を制するように、トワくんが一歩前に出る。
軽々とかごを持ち上げると、私の方を振り返って、にっこりと笑った。
トワ
「☆☆さんはここで休んでいてください。あとは僕がやりますから」
☆☆
「そんな…私も手伝うよ!」
トワ
「駄目ですよ。☆☆さん、足ケガしてるんですから。それに、☆☆さんはいつも僕の手伝いをしてくれます。たまには、息抜き程度に休むことも大切です」
☆☆
「でも…」
トワ
「これは、さっき励ましてもらったお礼です。……これでもダメですか?」
キラキラと宝石のように輝くトワくんの瞳が、私をじっと見つめる。
お礼といわれてしまえばもう、反論の言葉は出て来なかった。
☆☆
「わかった…ありがとう、トワくん」
静かに頷くと、トワくんがまたにっこりと微笑んでくれた。
その優しい笑みに、私は一瞬目を奪われる。
頬が少し、熱くなるのを感じた。
☆☆
(…なんで、頬が熱いんだろう?熱でもあるのかな…?)
自分の体温を確かめるように、ペタペタと顔や腕、首回りを触る。
そんな私の不可思議な行動に、トワくんは少し首を傾げたあと、私に声をかけ、かごを一度持ち直した。
トワ
「それじゃあ☆☆さん、またあとで…」
☆☆
「う、うん。ごめんね、ありがとう……」
かごを抱えたトワくんが、ゆっくり甲板をあとにする。
なぜだか私は、船室に消えていくトワくんの姿を、何かに取りつかれたように、じっと見つめていた。
姿が見えなくなった瞬間、頭の中に、モヤッとした感情が生まれる。
☆☆
「…?…私、どうしたんだろう?」
生まれた感情の意味がわからなくて、首を傾げた。
そして、何気なく、その場にごろんと横になり、雲一つない青空を見上げる。
右手を胸のところに持っていくと、いつもより少しだけ胸の鼓動が早いことに気づいた。
さっきよりも少し早くなった鼓動に、戸惑いを感じながら、私は聞こえてくる波の音に、静かに耳を傾けた。
→続く