たとえ君が…

□始まったきっかけ
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それは、まだ私が、誰が一番大切な存在なのか考えていなかった時。

誰と恋仲になったとかもなく、突然乗り込んでしまった海賊船にも慣れ、みんなと過ごすこの空間に、居心地が良いと感じてきていた時。

ずっとこの生活が続けばいいのにと、密かに思いながら、その事件は起きた。






リュウガ
「バーベキューをやろう」

朝の朝食時。

突然と表現するのが正しいほど突然すぎる出来事。

みんなと同じように朝食をとっていた船長が、何を思い立ったのか、いい事を思いついたというように、満面の笑みで声を上げた。

無論の事、私も含め、みんなが驚愕したのは言うまでもないことだった。

ソウシ
「船長、朝から変な冗談を言うのはやめてもらえますか?」

ハヤテ
「つーか、いきなり何でバーべキューなんだよ?」

トワ
「言い方も、もはや決定事項って感じですしね」

シン
「どうせ、変なものでも食べたんだろう。放っておけ」

ナギ
「船長に変な食べ物を与えた覚えはねえけどな…」

口々に船長に対してのバカにするような言葉や、けなすような言葉が与えられる。

そんな言葉一つひとつにすっかり落ち込んでしまった船長が、誰から見てもはっきりとわかるぐらい、がっくりと肩を落とした。

そんな船長の様子に気づいているのかいないのか、みんなはそれでもなお、話を続けていた。

それは、聞いてる私までもが思わず船長を哀れと感じるほどに。

シン
「前々から思っていたが、船長の老化が最近進んでる気がする」

ナギ
「一応、身体にいいものを飯に出してるんだがな」

ハヤテ
「酒飲んでるし、ナギ兄の飯の効力、酒に消されてんじゃねえの?」

トワ
「あ、それは確かにあり得ますね」

ソウシ
「うーん、しばらくは船長にお酒控えさせた方がいいかもしれないね」

ハヤテ
「お酒を飲む禁止令を出した方がいいんじゃねえ?」

ナギ
「それなら、宴禁止令も出した方がいいな」

トワ
「女の人を口説くのにも禁止令を出したらどうですか?」

シン
「ドクターストップみたいな感じのノリでどうです?ドクター」

ソウシ
「あぁ、それはいいかもしれないね。じゃあ、早速…」

☆☆
「み、みなさん!これ以上はダメです!それ以上船長に悪口言ったら、船長の魂があの世行きになっちゃいます!」

見るからにどんどん落ち込んでいく船長にいたたまれない気持ちになった私は、ソウシさんの言葉を遮って叫んだ。

そこでようやく、みんなが船長を見る。

船長の周りには誰が見ても一目でわかるほど、暗い負のオーラーが漂っていた。

ぶつぶつとまるでお経のように呟く船長の声が、静まり返った食堂に響く。

ハヤテ
「あー、ちょっと言い過ぎたか?」

トワ
「ほんの冗談のつもりだったんですけどね」

シン
「まったく、こんな言葉で落ち込むとは、これでも船長なのか?」

ナギ
「一応、船長だろ?俺たちにしてみれば」

ソウシ
「他の人から見れば、ただの酔っ払いのおじさんだけどね」

ソウシさんの言葉に、みんなが吹き出す様に笑う。

更に落ち込む船長を見て、私は慌ててみんなの笑いを遮った。

☆☆
「もう、みなさん!冗談言って笑ってないで、船長を励ましてくださいよ!」

全員
「だって面白いから!」

☆☆
「ひどっ!みなさん、悪魔ですか!?」

ソウシ
「まぁ、冗談はさておき」

☆☆
「それも冗談だったんですか!?」

私のツッコミに、みんなは笑って受け流した。

ぷくっとからかわれた事に頬を膨らませると、ソウシさんがごめんごめんと言いながら、ポンッと私の頭を撫でる。

優しい笑みに、ソウシさんを直視できなくなり、私はそっと目線を船長に戻した。

ハヤテ
「で、船長、何でいきなりバーベキューなんですか?」

リュウガ
「よくぞ聞いてくれた!!」

沈み込んでいた船長が、バッと起き上がる。

思いっきり起き上がった船長の身体が、テーブルの隅にドンッと当たった。

その拍子にテーブルの上に置いていたお皿やコップが一瞬浮かび上がる。

かろうじて食べ物も飲み物もこぼれることはなかったものの、コップの中に入ってる水は今もユラユラと波のように揺れていた。

シン
「船長、いきなり飛び上がらないでください」

トワ
「危うく、テーブルの上の料理がひっくり返りそうになりましたよ!」

リュウガ
「おぉ、そうか。すまんすまん!ハッハッハ!!」

謝る気があるのかないのか、豪快に笑った船長に、みんながはぁっと深いため息をつく。

それでも仕方ないと言ったように笑うみんなの姿を見て、悪口を言っても何を言っても、結局はみんな、船長の事を信頼し、大切にしてるんだと思うと、自然と笑みがこぼれた。

リュウガ
「☆☆がこの船に乗ってからもう三カ月になるだろ?その祝いに外でパァッと騒ごうと思ってだな」

ソウシ
「ついこの間も、☆☆ちゃんが船に乗って二か月たったからって、宴開きましたよね」

トワ
「それからも、何かと理由つけて宴してますよね」

ナギ
「食料がどんだけあっても足りねえんだよな」

シン
「宴が多い上に、プラスハヤテもよく食うからな」

ハヤテ
「お前も人の事言えねえだろ!?」

シン
「俺はお前の様に食い意地張ってない」

ハヤテ
「何だと!?」

ため息と一緒に少し呆れたように船長を見る三人。

そして突然喧嘩をし始めた船員二人。

そして、ケンカをし始めた二人にオロオロし始めた私。

それらを順々に見渡してから、船長は近くにあったコップに手を伸ばし、中に入っていた水を一気に飲み干した。

そしてその勢いのまま、バンッとコップをテーブルに置く。

今の衝撃でコップが割れなかったのかなと、今度は別の心配をする私の考えを遮るように、船長が大きな声を出す。

リュウガ
「お前ら!これは船長命令だ!三日後、俺たちは☆☆が船に乗って三カ月の祝いにバーベキューならぬ、宴をする!ナギは料理の準備だ!シンは三日後、どこかの島につけるように舵を取れ!ハヤテは見張り台でシンのサポートだ!島を見つけたら、シンに伝えろ!トワは倉庫に行ってバーベキューの道具の準備だ!わかったな!?」


→続く
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