K
□気まぐれにゃんこ
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「ねぇしつちょぉ….…かまってくださいよぅ…しつちょ?」
ドサッッ
ドササッ ボフン
起きたてで回転の悪い頭をなんとか動かし、眼鏡を掛けて物の少ない自分の部屋を見渡す。正直言って気分は最悪だ。
なぜなら、頭上に本が降ってきたから。
地震でもあったのだろうか…だが今はまだTVのリモコンまで辿り着ける気がしなかった。ベッドの側に本棚を置いたのは失敗だったか。
それにしてもなんだか良い夢を見ていたような気がする。
タンマツのロック画面には7時半と表示されている。
きっとそろそろだ………
prrrrr…………prrrrrrrrrrr………………ブツッ「…はい。」
「おはようございます。」
「おはようございます、淡島君。」
「今日は8時半からTV会議ですので、お忘れなく。」
「はい」
「では失礼致します。」 ブツッ
2ヶ月ほど前に朝が苦手だと零してから彼女は所謂"モーニングコール"なるものをしてくれている。部下相手に情けない話のような気もするが、彼女の好意なのだ、大人しく受け入れるしかない。
頭も心もだんだんと起きてきたので、セプター4の制服に着替える。自分で注文しておきながらいつも思う。なんて面倒な制服なんだ。
時間もないので食パン1枚にコーヒーという簡易的な朝食を食べる。
王といえど20代男性の1人暮らしだ、こんなものだろう。
だからきっと………朝、少し下の方が元気だなんてことも、よくあることだ。
そう信じたい、切実に。
まさか24歳になってまで朝から布団を洗う羽目になろうとは。
しかしその原因が思い出せない…、そんなことを考えながら執務室へ急ぐと時計の針ははもう既に8時15分を指していた。
「室長!」
遅いですよと暗に睨んでくる淡島君に対し、伏見君は大あくびをして目に生理的な涙を浮かべていた。なぜか急にどくり、と自分の血が早く流れ出した気がした。
「優秀な部下がいると上司は楽でしてね。」
「…室長。」
またもや淡島君の視線が私を咎めている。
「ふふふ…信頼しているのですよ。」
「全っ然嬉しくないですね。朝っぱらから副長の声を聞き続けなきゃいけない部下の身にもなってください。」
「ふむ、それもそうですね。」
「………」
そして程なくして政府のお偉方の顔が画面に映し出された。
事務的な報告をした後にまたいつもの"アレ"が来る。
「貴様の"数値"は、大丈夫なんだろうな。」
「えぇ、いつもと変わらず安定しています。」
「ならいい。変化があった時は……」
「はい、十分承知しております。」
あなた方が私を利用したいということも、迦具都クレーターの二の舞を恐れているのも、私が短命であることも、よくわかっている。
それでもこの場所を選んだのは自分だ。誰になにを言われようとも進むしかない。
「お疲れ様でした、今日はもう特に予定は無いので後は書類整理などになります。」
「はい、ご苦労様でした。伏見君も淡島君も、通常業務に戻って結構です。」
「はっ」
「………」
「失礼しました。」
淡島君は淀みない足取りで執務室の扉へ向かって行く。けれど伏見君はそれに従わない。
「…?どうかしたの、伏見。」
「いや………、その、」
珍しくも彼は何かを言い淀んでいる。そしてうつむいていた伏見君は突然顔を上げてこう言ったのだ。
「…無理は、しないでくださいね。」
え…………………………?
「あ、はい。ありがとうございます。」
パタン
執務室の扉が閉じる。
彼の口から出た言葉を理解するのに大分時間を要した。
不審に思われなかっただろうか…
遠ざかる2人分の足音。
「まさか彼が……」あんなことん言うなんて。
顔を上げた時にしっかりと私に合わせた瞳が綺麗で、魅入ってしまった。
「……ぁあーーーーーーっ!」
デスクの角に足をぶつけた。
だがそんなことよりも今朝自分が見た夢がどんなものだったのかを、思い出してしまった。
なんてことだ。
私は自分の部下をそんな目で見て…ッ〜〜〜あぁああぁー!!!
「珍しいわね、伏見。」
「…なにがですか。」
「ふふ…室長は今頃すごい顔をしているのでしょうね。」
「さぁ?」
と言う伏見の顔はとても楽しそうで。
あなたもたいがい室長のことが好きね。
微笑ましく思ったけれど、わざわざ伏見の機嫌を損ねることはないかしら、とも思ったため口に出すのはやめておいた。
それにしても…まさかあんなに簡単に部屋に入れるとは………
眠っていても綺麗な顔にムカついて部屋にあった本をその顔の上に落とした。
極め付けは、「ねぇしつちょぉ…かまってくださいよぅ……しつちょ?」。
自分で言っておいて吐きそうになったが、そんな気持ち悪い思いをしたにもかかわらず室長がピクリともしなかったのがつまらなくなって部屋を出た。
「…つまんね。」