vanguard
□かざぐるま
2ページ/2ページ
〜櫂視点〜
「…櫂くん、みんなとはぐれちゃったね…」
泣きそうな蒼い瞳が俺を見つめる。
彼は共に来た他のメンバー達を気にしていたが、正直なところ櫂はアイチと二人きりになれたことを喜んでいた。
「…他の奴等は全員お前より歳上だぞ。お前が心配してどうする」
「そっか…そうだよね。ありがとう、櫂くん」
ころころとたちどころに変わっていくアイチの顔。ずっと見ていても飽きないだろうと思う。
しかしアイチは、放っておくと追いかけてくるのに掴もうとするとふわりと舞って逃げていく、まるで羽の様な存在だった。
その羽を掴もうとしたが、ふわふわ舞って、躱される。
「…アイ
「櫂くん!!僕、林檎飴買ってくるね!!ちょっと待ってて」
…櫂の完敗だった。
数分後、アイチは櫂の元に林檎飴を2つ抱えて戻ってきた。
「これね、売り子さんとじゃんけんして、勝ったらもう1つおまけにくれるの。だから、これは櫂くんの!!」
「…ありがとう…」
くるくるくるくる。
今日のアイチを写真に収めておきたかった。
彼の百面相はとても可愛らしい。
「あ、櫂くん…立ったままじゃ食べにくい?一旦人混みから離れようか。みんなともなかなか会えなそうだし」
そう言って、2人は甃の道を離れ、脇にあった細い砂利道を少し進んだ先にある小さな腰掛けに座った。
「…正月以外で、此処に来た事はなかったな。案外、楽しめるものだとは思いもしなかった」
「僕も家族以外と来るのは初めてだよ。凄く、楽しい」
ふわりと風が2人の間をすり抜けていった。
その時、普段は御神籤を結び付けてある処に代わりにあった沢山の風車がからからと音をたてて廻った。
「…アイチ…」
「…櫂くん…っ」
からから、からから。
夏祭りの夜にしたキスには、林檎の甘い香りが纏っていた。