その1

□煙草
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「ねえ、それいい加減やめてくれない?」


顔を顰めて言う姿は割りと可愛らしいと思った。
俺は勿論やめるはずもなく、にこり、と笑ってまた吸い始める。
それが気に喰わなかったのか凪斗は手を伸ばして煙草を取ろうとする。
取れるわけがないのに。
必死に腕を伸ばし取ろうとする姿も可愛らしい。


「…っ、僕、煙草嫌いなんだから…!それ、早くやめてよ…っ!」
「あー…?…んー、まあ良いじゃん?たまにはさあ」
「偶には…!?もう何本目だと思ってるの!?3本目だよ、吸いすぎだと思わないの!?」


ぺちん、と背中を叩かれる。大して威力はなかったがちょっとだけ痛かった。
取るのは無理だと気付いたのかそっぽを向いて歩き始める凪斗。
そして、ぼそり、と。


「もう日向くんとちゅーなんて絶対にしないから…」
「…え?」
「ふんっ、もう良いよ!日向くんなんて!」


むすり、とこちらに顔を向け怒っている。
…って、今、言ったのは。
あ、つまり。


「じゃあ煙草止めたら凪斗からしてくれんの?」
「…は?」
「キス、してくれるんだろ?」


笑いながら問いかけると一気に真っ赤になる顔。
やっぱり見てて飽きないな、だなんて思いながら。
その命を終えた煙草を道に投げ捨てた。




おわり。

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