その1

□殴り愛
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暗い教室、外は月も出ていない、曇った夜。そんな静かな夜に音が一つ。
鈍い音がした、物が倒れる音がした。人、が倒れたような音がした。


「っ…ぐぁっ…!?」
「かっわいー、ほら、まだ一発目だぜ?」


そんな声が響いてまた鈍い音がする、今度のほうが酷いような、そんな。
頭が地面にぶつかる音がする、それに続いて喘ぎ声も聞こえる。喉から無理やり息が吐き出される。
小さな身体が机にぶつかって、バランスの崩れたそれが落ちる。
それを見て笑っている一人の、男。


「ぁあっ…う…げほっ、が…っ!?ぃ…」
「おっと、机落ちてきちゃったなー、どう?痛い?」
「…っなの、当り前に決まってる…でしょっ…この変態め…っ!」


ぎろり、と音がしそうなくらい強く睨みつける少年。
その反応が良かったのか、男は頬を緩ませる。
そして、近づいてしゃがむな否やその少年を思いきり殴る。それだけでは止まらない。
その机に埋もれたからだを無理やり立たせまた腹を思い切り殴る。
そして倒れこんだ少年を踏みつける。
少年は声一つ出す暇すら与えてくれないその猛攻に耐えた。
他耐えたところでなにがあるのかは分からないが。


そして、暫く時間がたった。
そこにはぼろぼろになった少年と。その少年を椅子に座ってみている男がいた。
ひゅう、ひゅうと風の擦れるような呼吸音だけが存在していた。
少年は動かなかった、動けなかった。
ただそこに一つの後悔だけが存在していた。
何故、あのときに反抗できなかったのだろうか。そんな今となってはどうでもいい後悔を。

男はそんな少年の姿を見ているのに飽きたのか、そこにあったひとつの鞄を手に取ると教室を去っていった。

そして残された少年は、何も出来ないからだでは帰る事すら、いや、立つことも叶わないままそこで目を閉じた。





おわり。

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