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□俺の好きな人
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 俺の好きな人

 
 俺の恋人は、すごく可愛い。
 甘い声で、『好きです』って言うと。

「っ、馬鹿」
 
 そっぽを向いて、照れちゃうとことか。
 しかも耳がまっかっかなこと気付いてなくて。
 キスをする時は、絶対に目を閉じちゃうところも、恥ずかしくてぷるぷる震えてるのを俺が気付いてないと思ってるとことか。

「は?オレがモテねーわけないだろ」

 それと、ちょっとナルシストなとこも、可愛いと思う。
 なんて、本人には言えないけど。言ったら蹴りが飛んでくる事間違いなしだ。



「お前、今変なこと考えてたろ」

 ぴくり、整った眉を動かして俺をジトリ…と見つめる南沢さん。

「別に、ただこの前のデートの時、南沢さん
が映画で感動して泣いちゃっ、ふごッ」

 ボフッ。南沢さんの匂いのするクッションを押し付けられて、視界が暗転。でも、容易に想像できる南沢さんの照れて赤い顔。ああ、やっぱ可愛い。

「そんな事思い出す暇があったら英単語の一つでも覚えろ、」

「えー、めんどくさぁ」

「受験生が何言ってんだ。ばーか」

 やっと見えた南沢さんは、いつものポーカーフェイス。いや、ちょっとドヤ顔気味。
 
 ふう、とため息をついて右手に握りっぱなしだったシャーペンを持ち直す。
 目の前に広げた参考書が、一つも頭に入ってこない。
 勉強を教えてもらうために来たのに、この人がいるだけで集中できない事を改めて知った。
 こんなんじゃ南沢さんと同じとこ行けないじゃんか。それだけはマジ勘弁だ。

「南沢さん、」

「んー、何?わかんねーのか、」

 ぐいっと身を乗りだして参考書を見つめる南沢さん。

「で、どこ?」

 …すみません、俺余計な事考えてます。

 うなじ綺麗で、腰細くて折れそうとか、髪さらさらなんだよなぁ、とか。

 抱きしめて可愛い可愛いって言いまくりたい。んで、それから……

「倉間、手」

 思わず肩に回していた手をペシンと叩かれてしまった。

「、いじわる」

 むすっとして唇を突き出すと、怒っていたような顔が少し和らいだ。
 あ、可愛い。

「がっつくなよ、馬鹿」

 ぐっと南沢さんの綺麗な顔が近づいて。

「ん、」

 ちゅっと触れるだけのキスを落とされた。まだ、目は開けてくれないらしい。おかげでにやけた顔を見られずにすんだのだけれど。

 離れていく南沢さんを上目づかいで見つめる。

「誘ってるんスか、」

「だから、がっつくなって言ってんだろ」

 すっと腰を浮かせる南沢さん。

「どこ行くんスか?」

「秘密―」

 間延びした返答。
 可愛くない。なんか可愛くない。

 湧き上がる衝動を抑えられず、俺は南沢さんの無防備な背中につー、と指を這わせた。

「っ、くらっ…ま、」

 ぴくりと震え、へなへなと座り込む。
 背中が弱い事なんて、お見通しだ。

 まだ顔を上げない南沢さんを後ろから抱きしめて、

「可愛い、ちょー可愛い」

 低く、声の調子を変えてみる。どうやら南沢さんは、耳元でこのトーンで囁かれるのが好きらしい。俺の偏見かもしれないけれど。

「、ちょーしのんな…」

 舌ったらずで、めちゃくちゃ可愛い。

「耳赤いです」

「っ、だまれ、」

「ねえ……ダメですか?」

 前にまわした手で筋肉質な南沢さんの体に触れる。ぴくり、と南沢さんが震えた。

「っ、ばか。べんきょ…っ、」

「勉強なんて、もういいです」

「くら、ま…っ、やめ」

 甘い声に、頭がくらくらする。

「ここですか?」

「っ、」
 胸の尖りに触れると、かすかに呻く声が聞こえた。こんな風に我慢している南沢さんも可愛い。

 嗚呼、ほんとこの人が好きすぎる。

「南沢さん、マジ可愛いッス…」

「っ、あっそ」

 うわあ、ここで更に俺を無自覚に煽るんですか、あんたって人は。
 ほんと、無自覚って罪だな。

「んじゃ、保健体育のじっしゅーってことで」

「んなっ、」

 ―可愛い可愛いと言い続けた結果、『可愛い、禁止』なんて言われてしまうことになるなるのだけど、それはそれで可愛いのでよしとしよう。

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