「雨…だねぇ」
「だな」
「嫌だね」
「そー?」
「だって、湿気すごいし、外出たら濡れるし」
「まぁそうだけど、お前を足止めできるなら、俺は満更でもないけどな」
「…そう」
全く、あんなグズついた曇天の時に、この家になんて来るんじゃなかった。
「急いで来い」なんて急かすから、傘を忘れてしまったじゃないか。
この部屋に入った途端に土砂降りなんて…ついてない。
「このまま、ここに居てくれりゃあいいのに」
私の肩に寄りかかって、猫みたいに擦り寄ってきて
本当にそれだったなら、上機嫌に喉なんか鳴らしてそうな程。
呆れて、返す言葉も出てこない。
(…きっと、全部…)
考えて、止めた。
ブン太が一瞬、何かに気付いたように外を見て、
正面に回ってきた彼に、両耳を塞がれたから。
何、と訊こうとしたその瞬間に、外から鳴り響く轟音。
一瞬にして肩がビクついて、同時に背筋が凍るような恐怖が襲う。
…耳を塞がれていたって聞こえる、私の大嫌いな音。
雷雨だ、とブン太が呟いた時には既に、
私は震えた手で彼の服の裾を掴んでいた。
窓に背を向けている上に、部屋が明るかったから、稲妻の光に気が付かなかったんだ。
…だから、外を見たのか、彼は。
「お前って本当、雷ダメな」
彼は苦笑して、あやすように私を抱き寄せ、頭を撫でた。
仕方ないでしょう?
恐いものは恐いんだから。
ブン太のこの優しさだって、続けざまに鳴り響く雷鳴には敵わないのよ。