過去作品

□さよならを言う勇気
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彼──…十四郎と初めて会ったのは、まだ俺等が餓鬼の頃


「おいお前、何してんだよ」


庭を歩いていると、
見たことのない黒髪の女が居た


「…すみません
旦那様に掃除を頼まれまして」
「父上に?
嘘を言うな、お前みてぇな使用人知らねぇよ」
「昨夜こちらに来ましたので」


女は俯きながら話、
こちらをまったく見ない

それが苛立って顎を掴み無理矢理こっちを見させる


「おいお前っ…」


それは息を飲むほどの美人だった

きっと妖艶とはこういうことを言うのだろう


「はい、何でしょうか」


我に返って気付いたのは、
何故か男物の服を来ていること


「何でその服?」
「召使いですので、
これを着るよう言われました」
「何で…って、あれ」


そこでまた気付いたのは声が低いこと

そして胸がなく、
体が異常に細い割りに筋肉があること


「…男?」
「はい、見ての通り」
「男ォォ!?」


そのあと彼を半ば強引に父上の元へ連れていくと説明してくれた

彼は土方というらしい

どうやら、土方の父親は父上の幼馴染みらしかった

しかし、身分の違いから暫く会えずに居て、
死んだと聞いたのが昨日

急いで行くと家に居たのは土方と、狂った母親だったらしい

所謂育児放棄
土方を引き取ることにしたのだと言う


「申し遅れました
土方十四郎です」


淡々と彼は言った

本当に、淡々と
まるで機械(からくり)の様に

感情も光もない瞳
そこには絶望すらもなく


「土方」
「はい」
「お前今日から俺の専属な」


何かに取りつかれてしまったかのように

俺は土方から目を離せずに居た

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