過去作品

□ラフレシア
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それは本当に突然だった




「土方さん…?」


いつもの様に二人で巡回をしていた

ブツブツと、悪態を吐きながら


そしたら、


「土方さん、土方さんっ…」


急に、倒れたんだ


俺の、世界で一番大切な人が















それは、天人が持ち込んだ、


治療法のない病


見た目や行動には一切症状はないが、

発病すると最悪1ヶ月で死に至るという


「トシ…」
「副長、」
「…」
「んだよ、辛気くせぇ顔しやがって
落ち込んでたって治る訳じゃあるめぇし、働け!」


アンタはそれでも、
いつもと何ひとつ変わらずに居た


「…アンタ、いつから」
「あ?」
「いつから気づいてたんでィ、
自分の身体のこと」
「つい最近だ」


何でもない風にさらっと言ってのける

煙草を吹かして書類に目を通して、
こっちをちらりとも見ない


「土方さん、」
「情けねぇな
ドSの王子はやっぱり打たれ弱いのか?」
「何言ってんでィ、

愛してる大事な恋人が死ぬかも知れねぇのに…」
「恥ずかしいこと言うなっ!」


ポカ、と軽く殴られる

赤い顔が可愛い


「…それに、
俺達はもともといつ死ぬかも知れねぇ身なんだ、

そんくらいの覚悟はできてんだろ」


覚悟云々の問題じゃないんだよ


俺はまだアンタと居たいんだ


俺の許しもねぇのにくたばる何て許さねぇ…


「俺の傍に居ろ土方っ…」


情けねぇ

何もできないなんて


情けねぇ

アンタを支えてやれないなんて


「好きって、」


愛してるって


あと何回、言えるだろう


─────────────…


ここは何処だ?


暗闇の中に

何の臭いも音もない


ただ広いだけのこの空間に
俺は一体何をしているんだろう


「…土方さん」
「総悟…」


手が震える

手を伸ばし掴もうとしても


力のないこの手では
愛しいその人にすら触れられない


「────…」


涙も出ない

声も出ない


俺は、


─────────────…


「総悟っ!」
「ひじか、たさん…」


どさり、


俺は血を吐いて倒れた


そんな俺を心配そうに、

涙を目に溜めて支える土方さん


「はは、情けねぇや…

アンタの最期も見届けれねぇなんて…」
「馬鹿野郎、何言ってんだ…」


頬に手を当てると
ひやり、冷たい


「ひ、かたさ…」


視界が霞む


嫌だ、


まだアンタに触れていたい

まだアンタを見ていたい




まだアンタを







愛していたい─────…








「…シ、トシっ!」
「!」
「総悟、トシが────…」


急いで土方さんの所に向かう

土方さんが、


「土方さんっ───…」


呼吸が乱れている訳でもなく

血を吐いている訳でもなく


そこにはただいつも通りの土方さんが布団に寝ていた


「土方さん、」
「…っ、そうご…?」


傍へ行き手を握ると

とても細くて、力のない


簡単に折れてしまいそうな手で


「っ、これが天下の鬼副長の手ですかィ?

情けねぇったらありやせんね」
「うるせぇ」


俺がいつもと同じように笑うと

アンタもいつもと同じように笑う


そんな、当たり前だった光景


「土方さん、愛して──…」
「総悟」


俺の目を見たアンタの瞳は


「     」


何て、綺麗なんだろう






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