過去作品

□勇者
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好き、好き、大好き

俺の、
世界で一番大切な人










その人はいつも凛としていた

弱さも隙も見せない人だった

でも時折、

酷く辛そうな顔をした


いつからだったろうか、

あの人が、

真選組が、壊れ始めたのは


その異変に、
最初に気付いたのは俺で、

最初に傷付いたのはあの人だった


己の大将が裏切者と知ったとき、

彼は泣きそうに、笑って言ったのだ


「あの人はあの人だよ」


貴方はどうするんですか、
何て聞けなかった

だってあの人には、

真選組も己の大将も、

同じくらいに、大切だったから


だから代わりに、
俺はこう言った


「俺は貴方に着いていきます」


俺は貴方に全て捧げると誓ったから


そしたら貴方は、
少し悲しそうに、


「…ああ」


って、短く言った


そんなのが続いて、
でもいつまでもバレない筈はなくて

でも誰も何も言わず、
誰も何も起こさず、

ただ日常のレプリカを

大事に保った

自分より年下のあの上司も
ただ悲しそうに、

自分と同期の奴も、

ずっと先輩の奴も、

ただ悲しそうに

でも、あの人だけは

ヒトリで、
真選組を護って、引っ張っていた


「…このまま、」


そんなレプリカも
やはり本物ではなくて

終わりを告げる時が来る

その時が近づいたとき、

あの人は部屋の壁に凭れて、

力なく座っていた


そしてぽつりと、呟く


「このまま、消えてしまえたら」


それは
初めて見る貴方の弱さで、

唯一の“本物”だった


自嘲して嗤う彼は、

あまりにも綺麗な、硝子のような瞳で

けれどその瞳は、
絶望に侵されていく


「このまま消えてしまえたら、

どんなに楽だろう」


それを聞いた瞬間に、
俺のなかで何かが切れて

気が付いたら彼の手を握りしめていた


「俺が、
貴方を連れて行きましょうか」
「…」
「どこまでも、どこまでも、」
「…お前に、迷惑かけるわけにはいかない」
「そんな、」
「悪ィ…」


嗚呼、どうして貴方が謝るの


ねぇ、あの時貴方を連れどこまでも逃げていたなら

きっと結末は変わっていただろうに

貴方を連れ出すには、














貴方を護るには、

僕の勇気が足りなかった



冷たくなってしまった
貴方の手を握る

もう2度と開かない瞼、
ねぇ、もう一度あの綺麗な瞳を見せて

そして微笑んで、俺を呼んで

そしたら何処にいたって貴方の元へ駆けつけるよ

そしたら今度は、貴方を連れて何処までも、護るから


「…み、ませ…っ」


すみません、今さらですね

けれど嗚呼、あの時、
勇気を出せたなら


勇者
(僕は勇者になれなかったただの弱虫)


貴方を喪ったその瞬間から、

俺の世界も、俺の全ても、

死んでしまった


ねぇ、愛しているよ、土方さん

.

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