過去作品

□君が居ない
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「うわっ煙たっ…」


障子を開くなり山崎は顔をしかめる


「あんまり閉じ籠っちゃ駄目ですって」
「るせぇ」
「はぁ…
副長、あんまり無理せんで下さいよ」
「あ?」


お前はいつも決まってこう言う


「アンタには少しでも長く生きて欲しいんです」


そしたら俺は決まってこう返す


「馬鹿かお前
俺達の世界に長生きもなにも…」
「それなら、」


そしてお前はニッと笑って

俺を真っ直ぐに見据えてこう言う


「俺がアンタを護りますよ」


その証拠にお前は何度も俺の元へ帰ってきた

大体は無傷で

たまに大怪我しても
いつも通りへらっと笑って


「ただいま帰りました、副長」


そうして何度も何度も飽きもせず言った


「好きです、副長」
「あっそ」
「大好きです」
「馬鹿だろお前」
「愛してます、土方さん」
「…俺も」


何度も何度もお前の体温を感じて

いつまでも続くものではない
それくらいわかってる

だけど幸せだった


それなのに、お前

さっさと帰ってこい

俺を待たせるな

そしてその笑顔でもう一度、






「山崎は良い奴だった

あいつはァこんなに大勢の奴に見送られて幸せだ」


隣で大泣きしている己の大将に心のなかで返しておく

ああ、知ってるよ、そんなの

馬鹿で地味でお人好しで、
優しくて優秀な奴だった


そんなの、俺が一番知ってる

幸せだ?
なぁ山崎、お前は幸せだったのか?
今、幸せなのか?

山崎のクセに、生意気なんだよ
独りで幸せになりやがって

置いてくんじゃねぇよ
勝手に死ぬなよっ…!!


「山崎っ…!」


さっさと帰ってこい

俺を待たせるな

そしてその笑顔でもう一度、


「あいしてる」と、囁いて


が居ない


大好きな愛しい愛しい、君が居ない

.
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