過去作品

□放課後特等席
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「…うるせぇ」


校内はどこも部活で賑わい、
一人になれるところはそうそうなかった

屋上に行こうとも思ったが、

校庭から人が立ってるのが見えるから止めた


「ん…ここ──」


ぴたりと足を止めたのは、

高校生活で授業以外に来たことがない図書館だった


「誰も居ねぇ」


ガラリと戸を開くと静寂に包まれた図書館

だが、日が当たって温かい


「窓から見えるか」


外から人影が見える筈だ
ここも駄目か

引き返そうと後ろを向くと、
とん、と何かにぶつかった


「あ、お前…」
「土方殿
珍しい客でござるな」


名前を思い出すのに詰まっていると、
相手はあっさりと俺の名を呼ぶ

ギターを背負ったグラサンヘッドフォンのこいつは…


「…河上、だったか?」
「そうでござるよ」


特に用もないし、
風紀委員の仕事以外で話したことはない

じゃあ、と言って行こうとすると話しかけられた


「何か本を探しに?」
「いや…
何と無く、静かだな、って」
「ああ…
それなら拙者の特等席を教えるでござるよ」
「え?」
「こっちでござる」


先に行ってしまったので黙って付いていく

すると、一番右端の席は

窓はあるが、木が丁度死角になって外からは見えない

木漏れ日が心地好い


「いいのか?俺なんかに教えちまって」
「土方殿だから、でござる」
「え?」


どういう意味、と聞く前に
河上が椅子を引いて目で座れと諭す

大人しく座ると、
向かいに河上が座った


「滅多に誰も来ない故、
曲を作るには絶好の場何でござるよ」
「ふーん…」
「土方殿も、
逃げたくなったらここに来ればいい」
「え、」
「話し相手くらいには…
歌を聞かせることくらいは、できるし」


ぴしゃりと心の内を言い当てられ、
一瞬ドキリとする


「いつも力を入れていては、
疲れぬか?」
「別に…」
「また、強がってる」
「…」


ふ、と一瞬河上が笑う

日がサングラスを透かして、
見えた目は、優しい


「目…」
「む?」
「お前の目、初めて見た」
「ああ、
普段は外さないからな」
「…」
「…見てみたいでござるか?」
「あ、いや、」


何となく恥ずかしくて目を泳がせていると
さらりと流された


「お前の手、」
「ん?
ああ、ギターを弾いていると、
自然とこうなるのでござる」
「へぇ…」
「土方殿とお揃いでござるな」
「ふぇ?…あ、」


我ながら間抜けな声…
恥ずかし

河上笑ってるし


「…笑うなよ」
「いやぁ…可愛いでござるなぁ、土方殿は」
「誰が可愛いだっ!!//」


ぽかっ、と胸ぐらを殴ると、
筋肉が堅い


「筋肉…」
「こう見えても結構強いんでござるよ?」
「…」
「手、剣を握る手と音楽をやっている手は、似ている」


互いの手はごつごつしていて、
豆やら何やら、

綺麗とは言えない手だが、


「ギター、好きなんだな」
「土方殿も、余程剣が好きなんでござるな」
「まあ
…どんなの弾くんだ?」
「色々、
ロックもバラードも

今度、音楽室に聞きに来る?」
「え、いいのか?」
「聴衆が居るのは嬉しい限り
それが土方殿なら、尚更」
「…なぁ、さっきから思ってたんだが、
何でそんな───…」
「今日、」


これはわざと遮ってるな

まぁ、いいか


「拙者の誕生日何でござるよ」
「へぇ
それなのに俺なんかと居て大丈夫なのか?」
「大切な人と居たいと大体の者は願うでござろう」
「だから、俺なんかと…」
「プレゼント、
土方殿から貰いたい物が1つ、
あるのだが」
「?俺から?」
「でもまぁ、
今日こうして話せただけでも、良いでござる
それじゃあ…」
「…何がいい」
「…」
「今日の、お礼に」


ここ、教えてくれたから

とつけ足す


席を立ったまま河上は少し悩んだあと、
サングラスを外した

その動作を目でおう

切れ長の目が俺を見る

綺麗な目だ───…


「────…」


至近距離に、その目が映った
今、口に───…


「拙者にお主をくれぬか」


放課後特等席
(それは君の側)

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