過去作品
□ 音
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神とか妖精とか
妖怪でも悪魔でも、
格の高い幽霊でもいい
何でもいいから、
どうかこの願いを叶えて
───────────…
綺麗な人
第一印象は、それだった
白い肌に艶やかな黒髪、
切れ長の目、吸い込まれる青色の瞳
「副長」
呼んでも返事はない
報告じゃないし、副長最近閉じ籠ってるからな…
「失礼します」
中に入ると壁に寄りかかって煙草を燻らせていた
机の上には山積みの書類と、
これまた山積みの煙草の灰皿
「…」
「副長、」
お疲れの様ですね
ぼーっ、としちゃって
可愛いですよ
あ、怒らんで下さいね
「…、き」
ぽつりと小さく、
掠れた声で貴方は呟いた
「…ゃまざ、き」
「はい」
何ですか?副長
───────────…
暗い曇天の夜
副長が独り、立っている
風の音すら聞こえない静寂
暗闇に溶けて消えてしまいそうな貴方は
今、何を思っていますか?
「副長」
声をかけても
こっちを振り向かず
ただ一点を
目の前にあるソレを眺めている
「…やまざき」
「はい」
そっと近づくと、
丁度名前を呼ばれた
「山崎っ…」
「…副長、」
嗚呼ねぇ、そんな顔しないで下さい
そんな悲しい顔させたいわけじゃないんです
「何してんだよ」
「…」
「俺が呼んでんだ、
早く来い」
「…すみません」
何かを堪える様な、
何かに縋る様な、震える声
「生意気なんだよお前、
山崎のクセに」
「すみません」
今苦しみ悲しんでいる貴方に
俺は何も──…
「山崎っ…!!」
勇気付ける言葉の1つをかけることも
優しく抱き締めることも
「俺より先に死んでんじゃねぇよ…!!」
傍に居ることさえも、できない───…
「土方さん…」
触れようとした手は、
貴方に触れられない
「土方さん、俺は、」
ここに居ます
貴方の隣に
「俺は、貴方を愛しています…」
俺の声は、貴方に届かない
「山崎っ…」
こんな無力な俺は、
一体貴方に何が出来ますか…?
「っ…」
霊となってしまった俺は、精一杯の力で
せめて強がりな貴方の代わりに、
涙を流すよ───…
「─────…」
土砂降りの雨に、
俺の墓標に寄りかかる貴方の声が、聞こえない
(傍に居る、俺は貴方の隣に)
神とか妖精とか
妖怪でも悪魔でも、
格の高い幽霊でもいい
何でもいいから、
どうかこの願いを叶えて
この人が、
早く、1秒でも早く、
この苦しみから
この悲しみから、解放されますように
.