過去作品

□例え僕が
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「暇だなぁ…」


俺、山崎退は幽霊だ

成仏できずに居る
理由は、わかってる

俺が生きていたのは江戸時代
真選組副長直属の密偵として

副長の土方さんは、
すごく綺麗でかっこいい人だった

言ったら怒られるけど、
とっても可愛い人だった

そして、俺の恋人だった

その人に誓った約束


「俺は貴方より先に死にません」


守れなかった、誓い

きっと成仏できないのは、そのせいなんだ

時が流れ、
貴方が──…貴方の生まれ変わりが今、

どこに居るかすらわからない今、
成仏するのは不可能に近い


「あー、土方さんに会いたい…」


土方さん、
今どこに居るんですか?


「ん…」


艶やかな黒髪
スタイルのいい長身

懐かしい、後ろ姿───…


「土方、さん…?」


俺の声が届いたかの様に、その人は振り向いた

ああ、会いたかった

俺の、愛しい人───…


「土方さ…」


声をかけようとした言葉は飲み込まれた

彼は、
俺を通り抜けていった

当然、か
俺は幽霊
もうとっくに死んでる

見えるはずがないのだ


「…土方さん、」


好きです、今も


この声、届きますか?


───────────…


彼の名前は土方十四郎
同じ名前だった

高校三年
成績優秀、容姿端麗

男女ともにモテる

そしてもう1つ、
わかったことがある


「土方くーん」
「…何スか」
「ちょっとぉ〜?あからさまに嫌な顔しないでよ」
「すみません、正直で」
「じゃあもっと素直になってみない?」
「何のことですか」
「…いや」


彼は、
土方さんは、担任の坂田銀八に恋をしている

坂田銀八もまた、土方さんを好きだ

…教師と生徒、男同士


それが二人の邪魔をした


「…それじゃあな、寄り道せず帰るんだぞー」
「小学生じゃあるめぇし…」


歩いていく銀髪の男を
土方さんは

愛しそうに、切なそうに、
悲しそうに見ていた


「…土方さん」


俺なら、そんな顔させません
俺は、絶対に貴方を幸せにします

俺は、ここに居ます

ねぇどうして、気付いてくれないの

こんなにも貴方が好きなのに───…


「触れることも、
話すこともできない…」


やっと会えた愛しい貴方

もう一度、俺に振り向いてくれますか…?

その時はもう二度と、
貴方を独りにしないから


「…銀八、」


愛しそうに呟いた名前は、
俺のものではなくて

一体何ができる?
こんな俺に

俺が今も成仏せずに居るのは、何故だ──…?


「土方さん、そんな顔しないで下さいよ」


そんな悲しい顔、しないで


「もう一度、貴方に誓います」


俺の姿は貴方には見えないけれど

俺の声は貴方には届かないけれど

跪いて貴方に誓います


「俺が、必ず貴方を幸せにします」


例え俺がその『幸せ』に
入っていなくても

.
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