過去作品

□アネモネ
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数年前の今日この日、長きに渡り続いた攘夷戦争が幕を閉じた。死傷者数は不明、幕府側も攘夷側も被害は甚大で、得た物など何一つ無かった。いろんな物を失った。家族だとか、仲間だとか、大切なもの全て。亡骸に埋もれたその場所で、雨に濡れながら空を見上げた。
俺は、もう二度とこんな刀の使い方はしない。もう喪いたくない、誰も。

大切な物を守るために、大切な人を護るためだけに刀を持ち生きる。
そう誓ったのだ。

「大切なお前のためだ、誓いは違ってねぇよ」

ぐちゃり、何かが潰れる音がする。だがそんな物はどうでもよかった。
すべきことを終えた俺は、カタカタと震えるかわいい奴に触れたくて。

「こいつらが悪ィんだよな?お前に気安く近づくから」

俺が目の前に立ち笑うと、お前は顔を歪めた。どうしたの?どこか怪我でもしたんだろうか。それともこいつらに何かされたのか?きっとそうだ。可哀想に、俺がついてるから、安心しろよ。

「よろず、や」
「なに?」

落ち着かせるように、できるだけ優しく返事した。俺ってばデキタ彼氏!まあ、まだ告ってねぇし、正式には付き合ってないんだけど。でも、将来俺がコイツの彼氏、いや、旦那さんになるんだ。だって、俺以外を好きになるわけないだろ?

「──いいぜ」
「え?」
「俺を、俺らを殺しに来たんだろ?」

ああ、俺が攘夷側についたと思ってるの?馬鹿だな、そんな訳ないじゃん。銀さんはいつだって土方の味方だよ。そりゃ、お前が煙草吸い過ぎたりマヨ取り過ぎたり無茶したら怒るけどさ。でも、それはお前のことが大切だからだよ。そんな俺がお前を殺すなんて、あるわけないじゃん。

思わずクスリと笑ったら、ピクリと土方が動揺した。安心させようと思って抱き締めたら、おずおずと背中に腕が回された。貴重なこいつのデレだ。

「俺は──」
「万事屋」

だから俺は浮かれて、土方の手が俺の背を離れ何をしていたかなんて、気づかなかったんだ。

「あいしてる」

ぐちゅあっ、そんな音が聞こえたと同時に、土方は俺の胸へなだれ込んできた。もう、土方ったら甘えん坊だなあ。まっ、そんな所も可愛いけどね!銀さん大人の男だから、いっぱい甘えていいよ。

俺もアイしてる、と言いたくて肩を掴んだ。お前の腹からは血が溢れ、口元にも赤いそれが垂れていた。

「土方?」

何これ?え、どういうこと?何で土方がこんなことに?
助けを呼ぼうと周りを見渡す。見知った顔がいくつも転がっていた。いや、顔と呼べるほど整っていない。元が何だったのかわからないものがいくつも、いくつも。

「嘘だろ…?」

誰がやったんだ?ぐちゃり、俺の手のひらには、顔には、服には、至る所には血が付いていて。俺の刀は真っ赤に染まっていて。
俺が殺したのか?こいつらを?土方を?嘘だ、嘘だっ嘘だ嘘だ嘘だっ!!

「おいっ、土方ァァアァアっ!!」


数年前、攘夷戦争が終結したこの日、再び始まった戦争も終わりを告げた。両者被害は甚大で、市民にまでそれは及び、

いくつもの無実の命が犠牲となった。


ア ネ モ ネ
(嗚呼、俺は無実じゃない。嫉妬に狂った殺人鬼)


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アネモネの花言葉…儚い恋、嫉妬のための無実の犠牲
2015/01(改)

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