沖×
□いつの間に覚えやがったそんなもん
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生意気な餓鬼がいる。そいつは、俺より年下のくせに、俺に威張りたがる。そして、俺のことが憎くて嫌いらしい。
「おい土方!稽古つけてやるぜィ、ありがたく思え」
「はいはい、沖田先輩、あざーす」
「てめっ、なめんな!今日こそ絶対倒してやるからな!!」
俺のことが憎くて嫌いらしい、のに毎日毎日俺の相手をする。年の差と身長差、それに伴う体力と筋力、そして経験。故に、俺はまだこいつに、負けたことはない。
そして今日も、いつも通り俺は勝つ。
「総悟!ミツバさんが迎えに来たぞ」
日が暮れる頃、そいつは大好きな姉貴と帰っていく。その表情はやっぱりまだ幼い。多少、いや、かなりひねくれているとは言え、無知で純情な餓鬼だ。
「近藤さん、また明日!」
「おう、またな!総悟」
嬉しそうに姉貴と手をつないで帰っていく。ぶんぶんと大きく手を振っていた近藤さんが笑顔のまま俺の方を向く。
「トシ、今日どうする?」
「全員留守にするわけにいかねぇだろ、俺は残るよ」
「大丈夫だ、今日は風邪だから留守番してると原田が」
「病人ならよけい誰か…」
「頼む!実は前回行ったとき彩芽ちゃんに頼まれてて!
トシ連れてかないと俺怒られちゃう!!」
「あー!もうわかったから、くっつくな」
度々、餓鬼が帰ってから宴会を開いたり遊郭へ行ったりすることがある。俺も行くこともあるが、今日は気分じゃない。
だが、近藤さんの頼みじゃ仕方ない。
「ありがとうトシ!さ、準備しようっ!!」
わかりやすく上機嫌になった己のついて行こうと決めた人に溜め息を吐く。いいのか、俺。こんなのが大将で。
そんなことを思わなくもない。まあ、実際は揺るがないのだけど。
「そういえば、ずいぶん総悟に懐かれてるな」
「誰が?」
「お前がだよ」
「俺?そりゃねぇだろ」
「いやいや、総悟は天の邪鬼だからあんなだがな、いつもお前の真似ばかりしてるよ」
「真似?」
「ああ、例えばトシが10周走ったら総悟も10周走る。トシが一万回素振りをすれば、総悟も一万回素振りをしようとする。
ほら、トシが川へ行くと付いていくだろ?風呂だって、飯だって、いつもトシの後をくっついてく」
そう言われればそうだ。あいつの年じゃ到底無理な量をこなそうとする。今は無理だ、けど。たぶん、あいつは俺より強くなるだろう。俺の年になる頃、今の俺よりもっと。
「トシが総悟の師匠だな」
「ハッ、ろくでもねぇ師匠だな」
「そんなことないぞ!
無理しがちなとこだけは直してほしいもんだけど」
そんなことを話していると他のやつが呼びに来る。近藤さんが返事をしてから、いつか総悟も一緒に行くときが来るのかな、と言う。あいつが女に興味を持つのが想像できない。…当然か、まだケツの青い餓鬼なんだから。
───────────────────────────…
「おはようございます、近藤さん!
…あれ?」
「近藤さん達ならまだ寝てる」
「げっ、土方」
「今起こしてくる、準備して待ってろ」
「待て土方!」
いつものように飛びかかってきた。重さでそのまま倒れる。こいつ、また背伸びたな。体重も重くなってる。
「胴着に着替えてく──…」
まるで判子みたいに、押しつけるだけの色気も何もないキス。一瞬だけして、すぐに離れた。
え?何で?こいつどういう意味かわかってる??
「お前、何して…つうか、どこで覚えてきた?え??」
混乱する。相手は俺に跨がったままこのこと忘れるなよ、とだけ言って走り去っていく。
くっそ、あのませ餓鬼。
キスに師匠なし
(いつの間に覚えてきやがった)
数年後には教えてもねぇのにドSに目覚めやがった。
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