沖×

□クロッカス
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俺の記憶に、両親は居ない。血の繋がりがあるのは、育ててくれた姉だけ。しかしその姉も俺が中学の頃病死し、俺は孤独となった。そんな俺に人の温かみをおしえてくれた人、近藤さん。少しだけ広がった世界で出会ったのが、土方さんだ。

俺のことに一々口を出して叱って世話焼いて、なんやかんやと傍にいるあの人。俺を見捨てないで居てくれるあの人。俺を見てくれるあの人。俺を大切にしてくれるあの人。

俺はそんなあの人に惚れて、あの人を恨んで、嫌って、愛した。
毎日抱き締めれば抵抗も弱まっていって、拒まれてたキスも当たり前になっていって、押し倒し抱いて、あの人が拒絶の言葉を発する度顔を悲しそうに歪めればあの人は俺を受け入れる。俺はその優しさにつけ込んで毎日毎日。そしていつの間にか、それがあの人から俺に向けられる愛だと勘違いしていた。

「愛…してた、よ」

俺の心の中を読んだかのように俺に言う。俺は動きを止めて立ち上がると、解放された土方さんが荒く息をしながらぐったりと壁に体を預ける。赤くなった頬と首筋をつたう汗が妙にエロい。

カキィンと景気のいい音が聞こえる。嗚呼、そういえばここは教室だったな、と思い出す。まあ、そんなことはどうでもいいのだが。2人揃ってサボるなんて、怪しまれているだろうか。俺はともかくとして、この人が休むなんて滅多にないから。

「今頃心配してやすよ、近藤さん」
「…」
「それよりアンタはあの人の方が気になりやすかィ?土方さん」
「…」
「答えろよ」

足で土方さんのモノを踏みつける。痛さに声を漏らして顔が歪んだ。最高に綺麗な表情だが、今はそれが憎らしい。どうして、アイツには向けられる笑顔が俺には向けられない。

「ねィ、何話してたんですかィ」 
「…」
「楽しそうに笑顔なんか見せちゃって、抱き締められて、俺のことは避けるくせに、アイツのとこには毎日行くんだ、俺といる時間なんてどんどん減ってるくせに、アイツとは」
「っ、そ、ご」

涙で潤んだ目が俺を上目遣いに見つめる。それは睨まれているようにも見えて、余計にイライラした。足をどけてやり、しゃがみながら土方さんの髪を鷲掴み噛みつくようにキスをする。ああ、このまま死んじゃえばいいのに、この人。

「そ、やだっ、やめろ」 
「…嫌いになりやしたか、俺のこと」
「それは、違う」
「でも好きなんでしょ、銀八のこと」 

黙って目をそらした彼を見て、暗い奥底から絶望が押し寄せる。それでも俺は知らない振りして自分の胸に土方さんを抱いた。小さな、自分でも聞き取れるか不安なくらい小さな声で、耳に唇をあててやりながら囁く。
 
「俺を、見捨てないで…っ」

びくびくと怯え震えながら土方さんの腕が俺を抱き返す。俺は折れてしまえばいいと思いながら精一杯の力で抱きしめた。彼は俺の頭を撫でながら。

「…愛してるよ、総悟」
「俺も、愛してる」

そしてまた、俺たちは幸せから遠ざかっていく。信じていると、自分に言い聞かせて。

外にはきれいな飛行機雲が伸び、少しずつ薄れている

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