山×
□鬼の目に涙はいらない
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強いアンタが憎かった。
他人にも自分にも厳しくて、汚れ仕事も躊躇いなく、冷徹非道な──そう、まさに鬼。
それなのに仕事はやたらできて、いつもアンタの言うことは無慈悲で最低だけど、成果は確実に出た。
決して正しい正義のヒーローじゃないけど、あの人は忠実だった。己の信ずる道を真っ直ぐに進んでいた。それが茨の道だとしても。
あの人の涙なんて見たことがなかった。あの人の笑顔なんて見たこともなかった。あの人が謝るところなんて、見たこともなかった。
だけど本当は、誰より傷つきやすい人だった。誰より仲間思いの人だった。誰より罪もすべて背負って生きていた。
俺はそんなアンタに憧れてた。
決して追いつけない背を追い続け、決して肩は並べられないけれど、三歩後ろのこの距離感を保って歩いた。
それなのに、ねえ。
「やま、ざき…っ」
最後まで俺の憧れで居て下さいよ。そんな顔、アンタらしくない。
「ふくちょ、ッガハ、あっ、は、──副長」
ぴくりと反応する。アンタは一層辛そうな顔をして、俺の腕を掴む手が力を強くする。
ねえ、副長。
俺はこれっぽっちも怒ってなんかないですよ。憎んだりもしません。本当です。でもね。
最後まで、俺の憧れの人でいて下さい。
だから、
「やまざ、き…ごめ、」
「ぃわな、で」
どうか、謝らないで。
鬼の目に涙はいらない
(どうか俺の愛した鬼のままで)