山×

□3歩斜め後ろの所定位置。
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「わ、ちょっとかけすぎじゃないですか?
太りますよ」
「うるせぇ」


理不尽に殴られるのは日常茶飯事。でも、実はこの人がそんなことするの、俺くらいなんだよね。

他の隊士はそもそも副長に注意なんかできない奴が多いけど、原田とかが注意してもうるせぇの一言で終わり。誰に対しても荒いけど、理不尽なことはしない。
だから他に比べて俺も一応この人に近い距離にいるってこと。


「トシ、ザキ、待たせたな!」
「ああ。先に食ってたぜ」
「相変わらず気持ちの悪ィもん食ってやすねィ、
流石でさァ土方さん」
「あ?てめぇ総悟っ…」
「あー!はいはい、食事中に喧嘩しないの!!
トシもかけすぎは体によくないからね?」


ああ、やっぱり安定してるよなあ、この人たち。
戦場においてももちろん頼りになるし、日常においてもこの人たちのこのやりとりが俺ら隊士の日常だ。
そんな喧嘩するほど仲がいい(喧嘩の範疇なのかは怪しいものだが)上司たちを見るのは好きだ。こんな血生臭い日々を生きてる俺らにも、“家族”というものを見せてくれるから。だけど。


「懐かしいなあ、トシと初めて一緒に飯を食ったあの日、すげぇ驚いたよ」
「折角の食事が土方コノヤローのせいで台無しでしたからねィ」
「てめーの分を好きなように味付けして何が悪ィんだよ」
「トシの体が心配だよ、俺は!
煙草にコーヒーにマヨネーズのとりすぎ…それに寝不足!よく無茶するし」
「近藤さんに余計な心配かけさせんなよトシ」
「お前にトシ言われたくねぇんだよ!
だいたいお前らがまともに仕事してくれりゃあ寝不足は解消すんだよ」


ああ、この感じ。

俺はついて行けない、入り込めない。
どれだけ他の隊士より近かろうと、一番にはなれない。所詮は“使い勝手のいい部下”止まり。それ以上になんて、なれない。

この人たちと居るといつも痛感させられるんだ。
俺が隣を歩いていても、この二人に会えば当然その隣は俺じゃなくなる。俺の優先順位は、ずっと下。

ああ、それでも。


「山崎?」
「っあ、はい!」
「どうした、ぼうっとして」
「あ、いえ!何でもないです。へへ…いでっ!?
え、何で!?」
「うっせぇ、顔がムカついたんだよ」
「ひどっ!」


こうやってアンタは俺の方を振り向いてくれるから。
俺はこれからも、アンタの後ろを歩いていく。


3歩斜め後ろの所定位置。


「…じか、ん」
「あ?何か言ったか?」
「いえ、何でもないです、副長」


いつかは俺もあなたの名前を呼べるだろうか。


おわり
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