山×

□夜が深まる前に
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監察方という仕事は、言ってみれば忍のようなものだ。

潜り込んで情報を盗み、闇に紛れて命を奪う。潜入して信頼を得て目的を果たせば平気で裏切る。
ただひとつ違うのは、主が一定の人物であることくらいか。

忍を猫だとするならば、俺らはまさしく犬。だけど、決して幕府なんかのではない。少なくとも、俺は。


「副長、山崎です」
「入れ」
「失礼します。
予定通り、明日から行って来ます。1ヶ月ほどで戻ってくる予定です」
「そうか、頼んだぞ。
いいか、あくまで事実の確認と情報の入手が目的だ。
黒だとわかっても無理に確保しようとするな」
「はい、承知しています」


任務についての確認を簡単に行う。それほど難しくはなさそうだが、何せでかい組織だ、全部を把握するにはやはり1ヶ月はかかるだろう。

しかし俺は仕事の話がしたいわけではない。適当に話を切り上げると、声色を変えて呼んでみる。相手も俺が何を望んでいるのか察したようだ。


「だめだ、まだ他の野郎も普通に起きてる時間だぞ」
「大丈夫ですよ、この時間に副長室に来る隊士なんてそうそう居ないでしょ」
「近藤さんや総悟は例外だ」
「隊長は今外出されてます。局長は大丈夫でしょう、局長ですから」
「仕事が溜まってるんだ、馬鹿どもの性で」
「どうせこの後も深夜まで起きて仕事してるんでしょう?
だったら今やらなくてもいいんじゃないですか」
「ヤった後の疲労感が半端ねぇんだよ。
つうかどうせなら深夜まで待て、何でこんな中途半端な時間に来たんだよ」

副長が時計を見て言う。
確かに今は9時を少し過ぎたところで、中途半端な気もする。


「俺明日5時起きですよ、深夜からヤると睡眠時間が短くなっちゃうじゃないですか。
潜入捜査に行くのにそれはまずいので」
「だったらもう寝ろ」
「嫌ですよ、1ヶ月も副長に触れられないんですよ?
最近ただでさえヤってないのに、そんなの堪えられる訳ないじゃないですか」
「知らねぇよそんなもん。
つうか、だったら普段来いよ、潜入捜査前日じゃなく」
「副長それわざと言ってます?
俺ら監察は夜の仕事が多いんですよ。というか、主な仕事時間が夜なんです。だから昼間は巡回や雑用をできるわけで。

滅多にない仕事のない夜はこうして副長のもとに来るのに、副長いつも夜デスクワークしてるんですもん、そりゃ溜まりますよ」
「ハッ、乙夜の覧って言うだろ。
デキる男は夜学ぶもんなんだよ」


そう言って煙草を吹かす副長は堪らなく色っぽくて、誘っているように見える。いや、実際誘っているのか。

その癖こうやって拒むのだから、酷い人だ。
この人だって、溜まってるだろうに。


「わかったらてめぇも読書でもしとけ、ちょっとは利口になんじゃねぇか」
「俺とシたくない理由でもあるんですか?
随分つれないですけど」


まあ、粗方の理由はわかってるんだけど。
その上で聞く俺も随分性格が悪いようだ。

手早く近づいて抱き込む。首に当たるさらさらの髪の毛がこそばゆい。
耳元に口を近づけてにやけを隠さずに言ってやる。


「もしかしていつも俺に任せっきりなのが悔しい、とか?」
「なに…」
「もしくはいつも俺より早くイくのが恥ずかしいから?」
「なっ」
「それとも、その両方?」
「っ…」


無言で赤くなるなんて、これ以上の肯定はないだろう。
少し体を離して目を合わせると、ますます赤くなる。

まったく、かわいいなあ、この人は。


「それなら是非テクニックでも学んでくださいよ、乙夜に。
デキる男は夜に学ぶんでしょ?」
「…調子のんな、山崎のくせに」
「あ、もちろん教師は俺限定でお願いしますね」


乙夜のキス
(勉強なんてしてられない)


夜はまだ始まったばかり。


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