山×
□きまぐれ
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俺の直属の部下に、すげぇ地味な奴がいる。監察方のそいつは、その地味さを生かして働いているようで、俺は天職だと思っている。
ただ地味なだけでなく、刀の腕もいいし、雑務にも細やかな気が利く。時々サボるのが玉に瑕だが、それ以外は忠実な、何の申し分もない部下である。
そして、今日2月6日は、そいつの誕生日である。
通常なら、組でやる誕生会(と言う名の飲み会)で終わり、それ以外は何もしない。それどころか、ほとんどは誕生日を覚えてすらいない。俺が覚えてるのは近藤さんと、総悟、それから…山崎だ。
何故覚えているかというと、それはあいつがよく働き、また優秀な部下だから。たた、それだけである。個人的な感情など、いっさいある訳がない。
それで、俺が今いったい何を悩んでいるかというと…
「副長、お茶をお待ちしました」
「うおっ!?てめっ、山崎驚かせんなよ!」
「え、すみません!
お茶が飲みたい頃じゃないかと思いまして」
「確かに飲みてぇけど…」
「それならよかったです、
あ、ついでに灰皿、かえますね」
「お、おう」
「他に何かありますか?」
「いや」
「それでは、失礼します」
「山崎」
「はい」
「…そろそろ近藤さんを探しに行ってこい。夕飯の時間だ」
「わかりました」
ぱたん、と障子が閉められる。まったく、何やってんだ俺。
押し入れにしまってある包みを見て溜め息を吐く。朝からこの調子で渡せず、結局飲み会間近だ。いっそ、飲み会の時抜け出してあいつの部屋に置いておこうか。
あいつは別に、俺からのプレゼントなんぞ期待してないだろうし。
「あー、何考えてんだ俺!」
「副長、そろそろ局長と山崎帰ってくるぜ」
「あ、ああ、今行く」
「?」
押し入れを閉め、煙草を咥えたまま原田と歩く。そうだ、部屋に置いときゃいい。
───────────────────────────…
「いつもありがとーなあ、ザキィ!!」
「いえ、そんな、ありがとうございます」
「もっと飲め、今日はお前のための酒なんだから!」
「はい、いただきます」
近藤さんが山崎と肩を組んで(と言っても山崎が一方的に組まれてるが)酒を飲んでいる。因みに、近藤さんの服は俺の隣に脱ぎ散らかっている。
「あれ、副長どこ行くんスか?」
「先に戻る。近藤さんがここで寝たら、まあ、ほっとけ」
「了解しましたー」
すでに寝ている隊士を避けながら自室に戻る。日が変わる前に、置いておかねぇと。
部屋に戻って煙草を消し、押し入れを開く。名前…は、いいか。何となく気づくだろ、あいつなら。包みを持とうとしたその時、山崎の声がした。
「あの、副長、入ってもいいですか」
「おう、入れ」
「失礼します。
あ、すみません!もうお休みになるところでした?」
「いや、大丈夫だ。
お前こそ、近藤さんと飲んでたろ。つうか、今日の主役がいいのかよ」
「局長は酔いつぶれて寝てます。
俺が居なくてもだいたい気づきませんよ」
「まあ…それもそうか」
「あの、おこがましいんですけど、酒、一緒に、飲みませんか」
「別にいいけど」
「本当ですか!
あ、俺の部屋にします?」
「いや、ここでいい」
俺なんかと酒を飲みたいのか、こいつは。変わった奴。…いや、気ィ使ってんのか?俺があんま飲まなかったから。
いや、でも俺がこういうのであんま飲まねぇの知ってるはずだし…
「副長、どうぞ」
「…俺が注いでやる」
「え!?いいですよ、そんな申し訳ない!」
「気にすんな、ん」
「あ、ありがとうございます!」
いちいち大袈裟なやつだ。
自分の分も注いで一気に飲む。うめぇ酒だ。
「美味しいです!」
「ああ、うめぇな、これ」
「いや、そういうことじゃなく…」
「あ?」
「いえ、えと、副長の好みだと思いまして、この酒」
「お前が買ったのか?」
「はい」
「自分の誕生日に飲むもんなに自腹で買ってんだよ…」
「副長とこうして酒が飲めただけで俺は満足です」
「何言ってんだよばか」
恥ずかしいことを真顔でさらっと言いやがる。
どうしたらいいかわからず、もう一杯、酒を飲む。
「副長随分飲みますね、つまみでも持ってきましょうか?」
「いい。つうかそんな気ィつかうな。
ん、お前も飲め」
「はい、いただきます」
すでに一本が空き、二本目も半分を過ぎた。
飲んでいる量はさほど変わらないはずなのに、いや、飲み会で飲んでた分は山崎の方がずっと上なのに、一向に山崎は酔わない。
「おまえ酒つえーな」
「そうですかね。副長はあまり強くな…いでっ」
「うっせぇ山崎のくせに」
「ひどっ!何スか山崎のくせにって!!」
視界がぐらぐらしてきた。体が火照る。少し胸元を緩めよう。
山崎が何か言いたそうだ。飲み過ぎだってか?お前が飲もうって言い出したんだぜ。
そうだ、俺何かこいつに渡そうと…。ああ、プレゼント。
「?副長、急にどうかしました?」
「いや」
「ちょ、ふらふらですけど」
「大丈夫ら」
今日何回目だろうか、押し入れを開く。
そうだ、こんなもんさくっと渡しちまえばいいんだ。
いったい俺は何を悩んでたんだ。
包みを手にして押し入れを閉める。
「山崎」
「はい」
「ん」
「やる」
「ええええ!?
い、いいんですか!?」
「おう」
「これ、本当に俺にですか!?ドッキリとかじゃないですよね!!」
「うん」
「ありがとうございます!!一生大切にします!家宝にします!」
「ばかか」
必要以上に喜ぶ、照れるじゃねぇかくそ。
開けてもいいかと聞いてくるから頷いてやる。また喜ぶ。犬のしっぽが見える。
「わ、丁度新しいの買おうと思ってたんですよ!
すごい!サイズもぴったりです!!」
「破れてたろ、膝んとこ。
それ着て潜入捜査行けよ」
照れ隠し…なんかでは決してなく、嫌みを行ったつもりだったのに目を輝かせて返事される。
「副長俺のサイズよくわかりましたね!」
「あたりめーだろ、ほぼ毎日見てんだから」
「へ…」
山崎が顔を赤くする。何だ、急に酔いが回ってきたのか?
急な睡魔に襲われる。布団…駄目だ、ねみぃ。まあいいか、自室だし。
あ、でも今一人じゃねぇ。いいか、山崎だし。
「あ、そうだ。
おめでと、山崎」
次の日起きると山崎がへらへらしてたからとりあえず殴った。酒くせぇ。渡した後は正直覚えてない。
けど、あんだけ喜ぶなら来年もやってもいいと、柄にもなく思った。
別に、特別な感情なんて一切ない。
ただの、気まぐれだからな。
だから、調子のんじゃねぇぞ、山崎!
おわり