山×
□木槿
1ページ/3ページ
俺の命なんて、金で買える
「ご苦労だった。今日の報酬だ」
「ありがとうございます」
危ない仕事でも法に触れる仕事でも、何でもやる
金さえくれれば
俺の命なんて、所詮そんなもの
惜しくなんかない
「ひーふうみー…
今日は結構もらえたなあ」
まともな仕事よりずっと報酬はいい
その日暮らしと言えばと聞こえは悪いが、
それでも普通に暮らしていくのに困ったことはない
それなりに女の子とも遊べるし、それなりの物は食べれるし、それなりの衣服を纏える
住むところは転々として、あまり一つの町に留まったりはできないけど、
人間関係なんかの柵(しがらみ)に捕らわれなくていい
世界なんて所詮こんなもので、
鮮やかな色もなければ胸が踊るようなこともない
ただ何となく、息をする。そんな毎日
味気ない、とか、つまらない、とか、色々言い方はあるけど、
結局一番シンプルな言葉は「無意味」
「えっと次の仕事は…」
さっきまでは攘夷側として動いてた
次の仕事は幕府側に攘夷の情報を渡す
いくつもの名前を使って、誰の記憶にも残らずに
きっとそのまま淡々と生きて、いつの間にか死ぬのだろう
─────────────────…
「なんだ、幕吏の癖に端金だな」
こないだ依頼を受けた──高杉と言ったか──の方がよっぽどいい報酬だったな
金を懐にしまって足早に撤退する
こういうヤバい仕事は、深入りも長居も禁物だ
場所を数百メートル程離れた人気のない橋
背後にいくつかの殺気──
「っ…!」
気づいて振り向いたときには既に鈍く光るそれは俺に振り下ろされていた
「ぐぁっ」
入りは浅かった、が、血が滲んでくる
嗚呼、たぶん高杉の傘下の奴等だ
情報が盗まれて幕吏に渡されたのを気づかれたか
ダメージを逃がす為後ろに飛んだ勢いのまま、別の男に蹴り飛ばされる
橋の手すりに当たり背中に激痛が走る、地面にドサリと俺の体が落ちて
ああ、俺死ぬのかな、なんてどうでもいいことをどこか冷静に思った
「ぐ、あぁあっ」
血が飛び散り、俺の顔にかかる
かかる…?
俺の血じゃない、なら、誰の?
黒いポニーテールを靡かせ俺を庇うように立つその人
見覚えのない後ろ姿
次々と相手を斬っていく
「誰だてめぇ!
コイツの仲間か!?」
「近い将来てめぇ等の大将の首取りに行く」
「あ?」
「真選組だ、覚えとけ
つっても、今死ぬから意味ねぇか」
シンセングミ、聞いたことのない言葉
強い…この人、ひょっとして“バラガキのトシ”じゃないだろうか
黒い長髪を靡かせ、鬼のように強い──
「おいっぶねぇぞ!」
「え…」
俺に斬りかかってきた奴の刀が腕を掠る
それに少し遅れて黒髪の男が斬り殺し俺を見る
「ぼさっとすんな!死ぬぞ!?」
死ぬ、ね
別にそれでも構わないのだが
「避けて下さい」
「は──」
ザクッ、男の背後から斬りかかろうとした敵の刀が彼の綺麗な長髪を切る
切れた髪が地に落ちる頃、
そいつの首も俺の手によって地に落ちる
それを見ずに背中合わせになる
「アンタこそ死にたいんですか、こんな俺なんかのこと助けて
“シンセングミ”だかってのつくるんでしょう?」
「なに、死にゃしねぇよ、こんな雑魚共相手に」
「今危なかったくせに」
「んだと!?」
「髪まで切れちゃって」
「ハッ、どうせ切るつもりだったんだ、構いやしねぇよ」
面白い、この人と共に戦うのは
噂通り鬼のように強い、けど
月の下で舞うその姿は美しすぎる
俺なんかの命を守るためにこの刀を振るう気にはなれないけど、
この荒々しくも綺麗で真っ直ぐな人を守るためならば、いくらでも命を奪おう
そんなことを、思わせる人
いつ振りだろう、俺の鼓動が煩い、
熱くなる、心の奥が
.