銀×

□猛毒。
1ページ/2ページ


「土方?」

俺は教師をやっている。似合わないのは自分でもわかってるからツッコまないでほしい。そして教師と生徒の恋愛はご法度だ。常識。
俺は年端もいかない小娘どもになんか興味もねぇからそんなのどーでもよかった。こいつに出会う、その日までは。

「先生…?何スか」
「いや…何って、明らかに具合悪そうだけど、大丈夫?」
「別に、どうってことないです。
少し休んでりゃ良くなるんで」
「部活中?もう帰ったら?」
「本当大丈夫なんで」

大丈夫っつっても息は荒いし汗もかいてる上に顔色も悪い。ぐったりとこんな所に寄りかかって座ってるのなんて、こいつらしくない。自分の教え子であり想い人である奴をこんな状態で放っておけるわけもなく、俺は隣にしゃがみこんで額にふれてみる。

「んー、熱はなさそうだな。
熱い?寒い?」
「別にどっちでも」
「何かほしいもんは?」
「…水」

さっき言ったこんな所、とは外にある水飲み場を指すわけで。一人じゃ立てないくらいフラフラってことなのだろうか。まさか俺が手ですくってあげるわけにもいかないし。

「ほら、立てるか?」

立ち上がって手を差し出すと普段からは想像もつかないほど弱々しく握られる。手は男のくせに細くて、そして冷たくて。ただそれだけのことに、俺はバカみたいにドキドキした。

「あっ悪ィ──…」

もう片腕を掴んだ拍子に胴着がずるりと落ち上半身が露わになる。そりゃ俺だって健全な成人の男だ、好きな奴の体見たら無条件に心拍数は上がる…が、俺の目が釘付けになったのは、それだけが理由じゃない。

「な、に…」
「どうかしました?」
「どうかしたって、お前っこれ!」

赤い痕…所謂キスマークがあちこちに付いていて、俺の脳内は少しパニックに陥った。何で?誰?

「そんなに珍しいですか、キスマーク。
先生も経験あるでしょ?」

平然とそんなことを言ってのけて、しかしフラフラな足取りの彼は俺に抱きついてきて。頭が着いていかない。そして、俺の理性が刺激される。

「誰と…」
「さあ、誰のかな。アイツら好きなだけ付けてくから」
「アイツ…ら?」
「まさか、特定の相手だと思いました?
あはは、俺そんな純情じゃないですよ」

きゅっ、と蛇口を捻る音が妙に響いた気がした。
妖しく笑う土方はとてつもなくエロくて、俺は無意識に唾を飲み込んだ。

「俺、色んな奴の家渡り歩いてるんです。帰りたくないんで。
そしたらどいつもこいつもがっついてきて。まァ、その分金も何もやらなくていいんで、俺としてはラッキーですけど」

そう言ってごくごくと水を飲み始める。口の端から零れて伝うのがまた淫らで、くらくらとめまいがした。

水を止めて口を手で拭った土方が、俺を嘲笑うかのように首を傾げて指差してくる。

「あれ、もしかして先生、欲情しちゃった?」
「何言って…」
「俺とヤりたい?」

徐々に近づいてきた土方は、もう鼻と鼻がくっつくくらいの距離にいて。さっき握ったあの細い手は俺の腰を撫でてベルトへ、そして下へと動いてゆく。

「バカ言うな、俺は一応教師だぞ」
「でも先生、ココは素直ですよ?
俺、きっと満足させてあげられますよ」

耳元で囁かれぞくりと震える。そのまま首筋を舐められ、軽くキスを落とされた。抱いて、と熱っぽい声音が俺の脳に直接響いたようで。
俺は自分の欲求に、コイツの色気に、勝つことなんてできるはずもなくて。

「よかった、今日まだ行くとこ決めてなかったんですよね。
じゃあまたあとで、センセイ」

はだけた胴着をきっちり着直してすっかりいつもの調子に戻ったアイツはさっさと部活へ戻っていった。

ああ、畜生。

俺はまるで毒薬でも飲まされたみたいに、暫く動けずに立ち尽くしていた。

.
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ