銀×

□いつもごめん、そんで
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「あ、そうだ、銀───」
「うっせえ!触んな!!」


そう言って俺は走った。アイツがどんな顔をしていたかなんて、知らない。


ごめんね


十月九日、俺は上機嫌で登校した。ヅラや高杉にはウザイと言われたが、そんなのは全然気にならなくて、一日にやけ顔を隠すのが大変だった。
俺がこんなに機嫌がいい理由は、明日が十月十日、俺の誕生日だからである。

と言っても、単に誕生日を迎えるのが嬉しい訳ではない。俺ももう16歳になる。一々そんなことで喜ばない。寧ろ、一時は嫌いだった。

小学校三年生の夏、俺は土方に引き取られた。
俺は元々親の居ねぇ奴が集まるところで暮らしてて、その頃に偶然土方と出会った。

土方とは俺より13個上の29歳、男。今はある会社でそれなりの地位についているらしい。この若さですごいと、さすがの俺でも思う。
そんな土方が俺を育てると言い出した。俺もついて行くと言った。俺が小3、土方が22歳のときのことだ。当時の俺はこんなこと思わなかったが、今はその若さでよくそんなことをしたと思う。

何で俺を引き取ってくれたのか聞くと、昔の土方に似ていたからだそうだ。その辺の話は未だに話してくれないが、まだ餓鬼のときの俺が土方の育ての親について訪ねたとき、「もういない」と寂しそうに作り笑いしていたのを覚えている。

そんな土方の寂しさを俺が紛らわせてやれたら、と思う。何たって俺は、土方の恋人なのだから。

そう、ここなのである。前置きが長くなったが、土方は俺の恋人、そして将来の嫁!
俺の姓は未だに坂田なので、俺が立派になって土方を養えるようになったらプロポーズしようと思ってる。まあ、実際結婚なんてこの国ではできないから、少し違う形にはなるけど、だけど坂田十四郎になってもらうんだ!


で、超絶可愛くて美人でえろくて気が利いて何でもできるパーフェクト彼女な土方は、俺の誕生日を毎年必ず祝ってくれる。小3の誕生日は初めて二人で迎えた誕生日で、俺の大切な思い出なのだが、長くなるので割愛。


そして、今年はなんと!土方が仕事を休んで一日中俺と居てくれるというのだ!!


「ローション買っとかねぇと」


そして俺は上機嫌のまま帰宅した。
流石に数年経って俺もそれなりに家事はできるようになり、今日は俺が夕食を作る。

作り終えた頃にちょうど帰ってきた土方は、着替えて食卓に着くと、とても言いづらそうに視線をさまよわせながら口を開いた。


「銀時」
「ん?」
「明日のことだが」
「…何、仕事でも入った?」
「…すまん」
「仕方ねぇな、別にいいよ、土方に食わせてもらってるし、学校まで行かせてもらってるわけだし」


まあ、そりゃそうだわな。毎分毎秒で動く目まぐるしく忙しい怒濤の毎日、土方はそんな中で働いているのだ、丸一日休める日なんてそうそうない。都合よく明日、休めるわけもなく。

むしろ、午後からは全くのフリーだというのだから、それで十分だ、けど。
素晴らしく律儀で尽くすタイプのできた嫁土方はものすごく申し訳なさそうにしていて、あまりにもかわい…じゃなくてかわいそうだったので。

ぐいっ、とテーブルから身を乗り出して片手でこちらに引き寄せ、耳元に口を近づけた。


「明日の夜、ぐちゃぐちゃにしてやるからな」


真っ赤な顔が可愛かったので、俺の心はばっちり満たされた。


─────────────────────────────…


「あー、暇だな」


今年の俺の誕生日は運よく学校が休みなので、土方が帰ってくるまで暇だ。だらだら寝ていてもよかったが、今日に限って土方と一緒に目を覚ましてしまったのだから仕方がない。

どっか行こうかな。せっかくだし、久しぶりに先生の墓参りにでも行ってこよう。そもそも俺の誕生日とは、松陽先生に拾われた日なのだから。(と言っても、俺は赤ん坊だったから覚えてないけど)


「行ってきます」


俺はケータイと財布と鍵だけ持って家を出た。


花を買って行こうと、花屋に寄る。ここら辺は滅多にこないが、女の人が多い。商店街の朝だ、当然と言えば当然か。

普段はあまり見ない景色をきょろきょろと眺めながら歩いていると、俺の目がある一点で止まる。


「土方…?」


何でこんなとこに?
いや、そんなことはいいんだよ、そんなことより───


隣にいる女、誰だよ


なあ、何してんの?仕事なんじゃねぇの?はあ?ふざけんなよ、
ちょっと オ イ タ が す ぎ る ぞ 、俺の 奥さん?


どんよりと暗い曇り空。先生の前に座り込んで、頭の中を整理しようとする。だけど、上手くいかない。
あの場で突き止めてやればよかった。何してんだよって。でも、情けねぇよな。俺が隣に並んでいるより、あの女との方がよっぽど絵になってて。悔しいけど、すげぇ綺麗だった。

そうだ、同僚とか部下って可能性もあるだろ。一回帰って聞いてみよう。ああ、頭から離れない。色気のある落ち着いた雰囲気の、大人っぽい女。誰だよ、ぁああくそ、消えねぇっ!


「ん、銀時。おかえり。昼飯どっかで食ってきたのか?
飯もうできて───」
「なあ、どこ行ってたの?」
「は?急に何…」
「やっぱり俺みたいな餓鬼じゃ満足できねぇ?」
「銀時、どうした?
何かあったか?」


俺の頭を撫でて顔をのぞき込んでくる。また、そうやって子供扱いしてっ…!


「あ、そうだ、銀───」
「うっせえ!触んな!!」


そう言って俺は走った。アイツがどんな顔をしていたかなんて、知らない。

家を出て、先生とよく来ていた寺に隠れる。土方の知らない場所。
駄目だ、こういうところが餓鬼なんだと、頭ではわかってる。けどそれを割り切れるだけの度量を俺はもってない。

勝手に劣等感抱いて、勝手に拗ねて、勝手に嫉妬して、勝手に焦って勝手に怒って勝手に逃げて、本当、手のかかる彼氏だよな、俺。そうだよ、確かに土方は育ての親でもあるけど、俺たちは親子じゃない、恋人なんだ。

土方だって、俺を好きでいてくれてる。子供としてじゃなく、恋人として大切にしてくれてる。だから、今日だって、俺のために…。

土方が浮気とか、するわけねぇのに。本当、バカだな俺。


気がつけばもうすっかり夜になってしまっている。…帰ろ。そんで、ちゃんと謝って、礼を言おう。


「ただいまー…」


鍵を開けて恐る恐る家に入る。真っ暗だ。土方の靴がない…そっか、俺のこと探しに行ったんだ。
スマホを確認すると、着信があった。そこからかけ直すと、すぐに繋がった。珍しく息を切らして話す土方の声を聞いて、俺は少し笑ってしまった。

ふと視線を移すと、テーブルの上に箱がおいてある。ケーキ?え、これってひょっとして…


「…これ、土方が作ったの?」
『え?何が…あああ!
おまっ、開けたのか!!?』
「だって気になったんだもん。
土方の手作りとか、すげぇ。いつの間にか作れるようになったんだよ?」
『〜〜〜っ!
…はあ。実は、ずっと同僚に教えてもらってたんだ。でも俺そんなの作んねぇから全然上手くいかなくて、結局間に合わなくて今日の午前中…』
「え!?」
『!
な、なんだ、どうした?』
「なんだよ、そういうことかよコノヤロー。いや、絶対そうだと思ってたけどね!」
『銀時?』


俺はその場にへなへなとしゃがみ込んだ。ちくしょう、やっぱりそうだった、俺が勝手に勘違いして勝手に怒ってただけだった。
それどころか、土方はいつも俺のために──。


『銀、おい、聞こえてるか?』
「なあ土方」
『あ?』


いつもごめん、そんで、
(ありがと、)



『!』
「愛してるよバーカ、そこどこ?うん、了解、待ってろよ。
今迎えに行くから!」


一分一秒でも早く、君に会いたい。
大好きな気持ちが溢れて止まらなくて、

これが愛してるってことなんだろ、土方。


fin
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