銀×

□誕生会
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ピピピ、ピピピ…

無機質な音で目が覚める。時刻は六時丁度、毎日俺が起きる時間。
カーテンをあけ換気のために窓を開く。少しひんやりとした空気が頬に触れて眠気が覚める。

嗚呼、今日も、新しい一日が始まる。


 ふ た り ぼ っ ち の 誕 生 会 


今日は5月5日、世間はゴールデンウイークの真っ只中で、俺も大学は休みだ。そしてこの日は、俺の誕生日でもある。
昔は、自分の誕生日なんか気にも止めなかった。近藤さんや総悟は毎年祝ってくれるし、他の連中も祝ってくれる。それでも俺は、自分の誕生日にさほど特別感を持っていなかった、こいつに出会うまでは。

いつも眠そうな目を擦って起きてくるそいつは、まだ寝ているらしい。それもそのはず、まだあいつが起きる時間より一時間も早いのだから。七時になったら俺が起こしに行って、それでも起きないあいつを放っといて朝飯をテーブルに並べて。そしたらその匂いに釣られて起きてきた天パを洗面所に押し込んで、準備が終わるのを待って二人で食べる。それが俺らの日常。

でも今日一つ違うのは、もうすでに朝食ができていること。あいつが昨日、俺が寝てからこっそり下ごしらえをして、俺が起きる前に作って、そしてもう一度寝てしまったのだろう。

「ったく、俺は甘いもん食わねぇっての」

綺麗にデコレーションしてあるあいつの手作りケーキを見て笑った。甘いものが苦手な俺に合わせて、毎年甘さ控えめのビターチョコケーキを作ってくれる。
どうせならたまには俺のこと起こす側になれよな、何寝てんだよ。

そんなところがまたあいつらしいよなあと笑って、俺はいつも通り身支度始めた。


────────────────────────…

毎年恒例、『ふたりぼっちの誕生会』はこいつ…銀時が始めたものだ(ちなみに、命名もこいつ)。俺は別にいいと言っているのだが、一度も忘れることなく開催される。

基本的にいつも料理を作っているのは俺だが、銀時も料理ができないわけじゃない。むしろ上手い方だ。菓子づくりに関してはプロ並み(そりゃそうか、パティシエ目指してるんだから)。

「相変わらず美味いな」

俺の嫌いなものが一切入っていない、俺好みの味付けの、俺のための料理。しかも銀時が作ったのだから、より美味く感じる(本人にはぜってぇ言わないけど)。

たっぷり味わって完食し、デザートのケーキを切り分ける。うん、当然のことながら美味い。きっと、卒業したらすぐに自分の店を構えられるんじゃないだろうか。何というケーキか名前はわからないが、今日は銀時が一番得意なケーキだ。

俺はゆっくり味わいながら、今日はこのあとどうするか尋ねた。毎年家でぐだぐだ過ごす(銀時はイチャイチャと言うけど)のだが、今日は特別天気がいいから聞いてみた。
しかし案の定、今年も家で過ごすようだ。ふたりぼっちの誕生会なのだから、と前に銀時が言ってたな。

「ごちそうさま」

ふたり同時に言って、いつもなら俺が片づけるが今日は銀時がやってくれる。これも毎年のことだ。

俺はソファに座ってぼーっと空を見ていた。皿をうるかしている間、銀時と他愛もない話をする。外で鳥が鳴いている。いい声だ。うとうとしてきて、俺は目をつむった。


────────────────────────…

「ん…あれ…」

目を覚まし時計を見る。もうすぐ十一時になろうかというところだ。結構寝てたな…。眠る前は快晴だったのに、曇り空になっている。銀時もあのまま一緒に眠ってしまったようだ。皿を洗おうかと思ったが、勝手にやると銀時が怒るのでやめる。起こすのはやめよう、朝食づくりのために夜中まで起きてて、早起きしていたんだから(その後眠っちまったみたいだけど)。

俺は伸びをして、銀時が起きるまでどうしようか考えた。もう寝る気分じゃないし、テレビや掃除は銀時を起こしてしまうからだめだ。本を読む気分でもないし、レポートは昨日のうちに終わらせたし…。

ふとキッチンに目をやると、食器が一人分しかない。そうか、銀時が俺の分を洗って、そこで眠くなってやめたんだ。この皿割ったら俺が怒るから。銀時の分だけなら洗っても怒んねぇよな?
俺は銀時を起こさないよう静かに皿を洗った。

洗い終わってまた暇になる。あ、そういえば俺ケータイどうしたっけ。この辺には見当たらないから、部屋か?あ、やっぱりあった。そっか、起きてから一度も触ってなかったんだ。

いくつかメッセージが届いている。きっと誕生日を祝ってくれるメッセージだろう。まだ銀時も起きないだろうし、読んでいこう。ほとんど話したことのないような、同じサークルの後輩達からのメッセージ。とりあえず一つ一つに礼を言って(いや、送って)適当に流す。近藤さんや総悟からのは後でちゃんと読むから一旦置いておこう。

その時、引き出しから見なれないリボンが出ているのに気がついた。開くと、綺麗に何かが包装されてある。銀時のやつ、いつの間に仕込んでたんだ?渡すのが照れくさいからと、三年前からこういうことをしだした。さては、あれも狸寝入りか?

中身を見たら起こしてやろうと決めてリボンをほどく。あ、これ前に見たことがある。俺はプレゼントを手に取り笑った。

「すげぇ、流石銀時だな。俺が欲しいものどんぴしゃだ」

俺は銀時がいるソファに戻って、早速そのプレゼントを使うことにした。

「ありがとう、銀時。
最高の誕生日プレゼントだよ」

ゴロン、手に持っていた瓶が転がる。中に入っていたものが全て零れてしまった。あああぁぁ…、折角のプレゼントが!

「土方さん!」
「銀時、ごめん、零しちゃった、ごめん…」
「土方さん!しっかりして下さい!
旦那はもう三年前に死んでるんですよ!」
「あああ、銀時、銀時…」
「土方さん!」


 ひ と り ぼ っ ち の バ ー ス デ ー


いつの間にか降り出していた雨が、
俺を嘲笑っているようだった。

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