銀×

□だってそれは別れの合図なんだろう
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どうして

思わず零れた言葉に、お前は顔を歪め苦しげに小さく答えた。
俺の責任だから、と。


昔、まだ互いに出会っていない、若い頃。ある敵と戦って負った傷から体内に入ってきたと。だからこれは自分の責任で、自分が片づけなくてはならないと。お前は確かに、そう言った。強い覚悟を持った、その瞳で俺を見つめながら。


「…っいやだ、
そんなことしたら銀がっ、」


俺は餓鬼みてぇに縋った。行かないでくれ、行くな、いやだ。だって、そうだろう。そんなことしたらこいつが──。

別れの場面によくあるような平凡な言葉をいくつか言って向けられた背中に、何年か前、いつかの俺らがしていたようなやり取りを思い出す。…嗚呼一体それは、いつの間に日常でなくなってしまったのだろう。


「待ちやがれ、白髪頭っ!!」


ぴたりと足が止まる。それでも振り向かないそいつに向かって叫び続けた。


「俺が気づいてねぇとでも思ってたのかよ!んなわけねぇだろっ、お前の銀色の光が、俺はすげぇ憎くてイラついて、どうしようもねぇくらい好きだったんだっ、

…気づかねぇわけ、ないだろ」


お前の髪が、少しずつ銀色の輝きを失っていくのを感じてた。お前の体が、日に日に弱っていくのを傍で見ていた。お前の赤い目が、少しずつ光を失っていくのに気づいてた。

それでも知らないふりを続けたのは決して隠し続けるこいつのためじゃなくて。
…ただ単に、認めるのが怖かったんだ。お前を失ってしまうという、訳の分からない現実を。


「そんなことして、何になるんだ」
「…被害はもう広まらなくなるよ」
「でもそれでお前が居なくなったら意味ねぇだろ!
お前が居なくなってもあの女はもう治らねぇし、死んだ奴も蘇らない。お前がいなかったら万事屋だって復活しねぇし彼奴らに…
俺に、日常が戻ってくることもねぇんだよ!!」


意味がない、そんな世界。例え白詛が収まっても。また新たに幕府が開かれても。この国に平和が訪れても。新しい命が誕生しても。俺たちが生きていても。

銀時の居ない世界なんて、何の意味も持たないのに。

どうして俺たちだけで幸せになれるものか。俺たちの幸せには、日常には、いつだってお前が居たというのに。俺たちの、…俺の命は、お前が居てこそ、燃やす価値があるというのに。


「お前が居なかったら、そんなの何の意味もない、銀っ…」


体に力が入らずへたり込む。ぼろぼろと涙が零れて息が苦しくなる。格好なんか、もう気にならない。ただ銀時に傍に居てほしかった。お前と共に死ねるのなら、俺はそれでも構わないのに。


「泣かないで、土方」
「嫌だ、行くなっ」


俺の元まで来てしゃがみ込んだ銀時の腕を掴んだ。
お前は困ったように笑って、俺の頭を撫でる。眉間に皺を寄せて、酷く泣きそうな笑顔で、ごめんな、と。何度も何度も呟いて。


「あいしてるよ」


何度も交わしたものなのに、何度も聞いた台詞なのに、何度も重ねた体温なのに、とてつもなく愛しいその全てが、堪らなく悲しくて、辛くて、苦しくて、今は聞きたくなくて、触れたくなくて。
嗚呼、今だけは口づけを交わしたくなかったのに。

怖いくらいに優しい口づけは、涙の味でいっぱいだった。


きっ面にキス

(だって、それをしてしまったら君は居なくなってしまうんだろう)






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