銀×

□あのさ、
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俺の記憶は、松陽先生と出会ったときから始まっている

親の記憶なんて、もちろんない
自分がいつどうやって「坂田銀時」という名前を持ったのかわからない

自分の年齢も、実のところ曖昧だ
松陽先生が同い年くらいだと言ったヅラ達と同い年ということになっている


10月10日

これは、俺と松陽先生が出会った日だ


「あー、だりぃ」


朝起きると味噌汁の匂いがする
いつからか、こんなのが日常になっていた

3人で朝飯食って、だらだら過ごして、仕事して

外を歩いたら顔見知りに出会して、
酒飲んだり馬鹿やったり

何てことない、俺の日常


「あ、銀さん」
「あー?」
「買い物、行ってきてもらっていいですか?
買う物はここに書いてありますから」


何だかんだ言いながら歩いて買いに行く
買い物の量はそんな大したもんじゃない

ぶらぶらと歩くのは、昔は苦手だった
でも今は、割と気に入っている


「あ」


お妙と九兵衛に会う
2人で買い物して、万事屋に寄ろうと考えていたとこらしい


「それじゃあ、勝手にお邪魔してますね」


2人と別れて最寄りのスーパーに着くと、
何てことはなく目的の物を買う

ついでにイチゴ牛乳も買った

土手沿いを歩いていると、餓鬼が3人、駆け回っている
今時あんな餓鬼も居るんだな

らしくもなく昔を懐かしんだりもして


「げ」
「待った!」


早足で立ち去ろうとする恋人の腕を慌てて掴んで引き留める
そんなあからさまに嫌な顔しなくてもいいじゃん


「偶然だね」
「…うるせぇ」
「え、ひどくね?」


並んで歩く
どこまで行くのか知らないけど、同じ方向なら着いていくしかない

特に何を話すわけではない
並んで歩いて、たまに俺が話して土方がぽつりぽつりと言葉を返して

ああ、いい、すげぇいい
こんな美人で良くできた恋人がいるとか、俺どんだけリア充?


「え、あのさ土方くん」
「あ?」 
「もうすぐ俺ん家着くんだけど」
「ああ」
「もしかして俺に会いに来たの?」


何拍かおいてからんなわけねぇだろと否定される
その顔は真っ赤で、かわいくて


「せっかくだし上がってけよ」
「いや、それはいい」
「え、何で」
「いいから早く帰れ」
「ちょ、土方!?」
「明日」
「え?」
「仕事、休みだから」
「へ?え、あ…!俺も!俺も!
明日、迎えに行くから!」
「来なくていい馬鹿!」


明日の昼前迎えに行こう
きっと準備して、遅いなんて言うのだろう

そう思うと今からニヤケてしまう


「あ、そうだ」
「なに?」


50メートルほど離れた距離、土方が立ち止まって振り返る


「や、その、さ」
「うん」 
「あの…あー…、やっぱいいわ、じゃあな」
「え、何それ!?」
 

しかし一度も立ち止まらずに行ってしまうから結局聞けず
土方らしくねぇな

まあ、悪い話題ではなさそうだったからいいか

ぽりぽりと頭を掻きながら戸を開くと真っ暗、電気がついていない


「新八ぃ?神楽?定春ー?」


がら、と居間へ入るとパァンと言う破裂音、同時につく明かり




──嗚呼、




毎日たくさんの物をプレゼントしてもらっているのに



俺はこんなに、今幸せ者


なあ、先生

俺────


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