万×

□バースデープレゼントは気づかれないように
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「あー、早く授業終わんないでござるかなー」
「授業受けてないくせに何言ってんスか」

スマホを弄りながらまた子が興味なさげに言う。

こないだまでガラケーだったのに、いつの間に変えたんだ。いつものたまり場に今いるのは拙者とまた子だけ。晋助がいないのはまあいつものこととして、現在入院中らしい似蔵とは暫く顔を合わせていないし、変態は知らないがとにかくいない。


「授業が終わらないと土方殿に会えないでござる…」
「だったら授業出て顔見てりゃいいじゃないッスか」
「それは違うでござる」


めんどくさ、と言って立ち上がり、また子はそのままどこかに行ってしまう。まだ昼休みまでは時間がある。ギターを構えて曲作りに集中した。


───────────────────…


「土方殿っ!」
「静かに登場しろよ」
「会いたかったでござるー!」
「俺の意見は無視かコラ」


抱きつこうとするとさっ、と避けられさっさと教室を出ていく。いつも昼飯は屋上で食べるのだ。

今日も今日とて冷たい土方殿の後を追う。ああ、綺麗な横顔!何て幸せだろう!!


「そういやお前らって俺らが授業してるとき何してんだよ?」
「なんと、土方殿が拙者に興味を…!」
「いや、何となくだから。
つうか“お前”じゃなくて“お前ら”な」
「そうでござるなあ…基本的には土方殿のことを考えたりギター弾いたりしてるでござるよ」
「なあ俺の声聞こえてる!?」
「もちろん!土方殿の声は一言も一音も聞き逃さないでござ…」
「だーっ!もういいから!そういう恥ずかしいこと言うな!!」


真っ赤な顔で講義する土方殿を抱きしめ──ようとしたら殴られた。つれないのはいつものことだ。というより、照れ隠しなのを知っているから余計愛しく感じる。

何笑ってんだ、と言われたから素直に土方殿がかわいくて、と言うとまた怒られた。幸せだ。幸せすぎるほどの日常。

チャイムが鳴り、教室まで送っていく。拙者はもちろん授業には出ない。


「じゃ、土方殿、帰りに迎えに行くでござるから」
「ん。
あ、そうだ」


いつも通りの言葉を言って行こうとすると何やらポケットから取り出す。


「これ」
「む?」
「来島に渡しといて」


そう言って土方殿が渡してきたのはヘアゴムだ。恐らくまた子の予備の。ああ、そう言われれば今日手首につけていたかもしれなくもない。

が、そんなことはどうでもよく。


「何で土方殿が持ってたの?」
「何で私に聞くッスか、土方に聞けばいいのに」


拙者とて聞こうとしたが、これを渡すとすぐに去っていってしまったため聞けず、仕方がないのでまた子に聞くことにしたのだ。

別にこの女に土方殿が取られるとは思っておらんし、土方殿もまた子も、互いにこれっぽっちも恋愛的に見ていないのがわかりきっているから嫉妬などくだらないことはしないが、単純に気になった。

拙者を通してしか共通点のない二人(正確にはクラスも一緒だが)が、いつの間にか仲良くなっていたのだろうか。


「さっき、昼前に偶然土方と会ったんスよ。
たぶん、そん時に落としたのを拾ってくれたんだと思いまッス」


偶然土方殿に会うなんてなんと羨ましい。彼は基本的には優しい。その上フェミニストだ(武市と違って本物の)、きっとまた子と会えば挨拶を交わす程度にはなっているに違いない。

特にそれについての興味はこれ以上湧かなく、帰りの時間になるまでギターをかき鳴らして過ごした。


─────────────────────────────…


土方殿と並んで帰る。今日は委員会活動がなかったらしく、いつもより早い帰宅だ。

基本的拙者が話し、それに土方殿が気まぐれで言葉を返してくれる。だけど優しいし真面目で律儀な土方殿はしっかり聞いてくれていて、拙者がたまに忘れて同じ話をしたりするとそれ前聞いた、と言ってくれる。ひとつひとつきちんと覚えてくれている辺り、本当によくできた彼女だ。


「あ、そうだ、河上」
「何でござるか?」
「ん」


土方殿の家の前に着いて、小さな包みを渡される。え、何、プレゼントなんてもらったの初めてなんでござるけど!


「今日、誕生日なんだろ」
「へ?」


言われて、ぽかん、と口が開く。今日って何日だっけ。えーっと、5月…5月20日…20日…あ、拙者の誕生日だ。

毎年誰に祝われることもなく、拙者自身あまり興味もないのですっかり忘れていた。え、何故土方殿が拙者の誕生日を知ってたんでござろう?


「か、河上?
もしかして違った?」
「え?ああ、いや、合ってるでござる。
ありがとう土方殿、この上なく嬉しいでござるよ」


え、何か静かだって?確かにいつもの拙者ならもっと騒いでいただろうけど、今は予想外のことすぎて言葉を紡ぐのが精一杯。

家に入ろうとしてまた戻ってきて、恥ずかしそうに視線を彷徨せる土方殿をぼーっと見ていた。


「誕生日おめでとう。

す、…すき、だ」


へ?

・・・ボフンッ!


「ひ、土方殿ォォォォ!!?
え、嘘、今何て言った!?もっかい、もう一回頼むでござる土方殿〜っ!!」
「う、うるさい!何も言ってねぇよさっさと、帰れ!」


ドンドンと扉を叩く。鍵は既に閉められてしまっている。これは本当に開けてもらえないパターンだ。けど、

柄にもなく嬉しくて、頬が赤くなるのを感じる、口元が緩む。よかった、こんな顔見せないで済む。


「〜〜〜っ!
土方殿っ、拙者も愛してるでござるよ!!」
「なっ…!?
俺はそこまで言ってな…」
「ありがとう、十四郎殿っ」
「──っ」


緩みっぱなしの口元をそのままに鼻歌交じりで自宅に向かう。早く返ってプレゼント見よう、そして電話しよう。

そのとき、メールを受信した音がして、期待して名前を見る。なんだ、また子か。一応開いてみるでござるか…。


『私からの誕生日プレゼントッス。
満足でしょ?』


一瞬何のことかと思って、すぐに合点がいく。拙者が土方殿に誕生日を教えたことなどないのだ、本来なら彼が知るはずがない。

このときほどまた子に感謝したことはないだろう。


バースデープレゼントは気づかれないように
(目に見えないんだからそりゃ気づかれない)

おわり
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