短編

□キミの誕生日
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「何が欲しい?」
朝一番、起きたての私に彼は聞いた。
「睡眠時間」
「キミは寝るのが本当に好きだね」
溢れんばかりの笑顔で私のす顔を見る。
「今日はキミの誕生日だよ」
そうか、誕生日か、と実感する前に何でこの男は知ってるのという当たり前の疑問に辿り着いたが、無視した。
考えてはいけない。

「ねぇ、何か他の物でさ、ない?」
「いらない」ろくなもんじゃなさそう。
「それじゃつまらないよ」
唇を尖らせてぶーぶー言う。

自由が欲しい、放して、なんて言えない。
言ったら何されるか分からない。
足の腱を切られるかもしれないし、殺されるかもしれない。
幸い、暴力はまだふられてないから無傷だけど、いつ、なんて分からない。
彼の目は何を考えているのか、さっぱり分からない。

彼を見たらまだ悩んでいるようで、ぶつぶつ何かを言っているが聞き取れない。
突然、そうだ、と何かいい事を思いついたとでもいうように彼はパァッと明るい表情になった。
それから真剣な顔でこう言った。
「ボクをあげるよ」
「いらない」
「いい考えだと思ったんだけどなぁ」
ろくなもんじゃない。
その後もしつこかったのでケーキをお願いした。
ただのケーキと言ったはずなのに、彼は私の一番好きなチーズケーキを作ってくれた。
考えてはいけない。疑問は無視だ。

やっぱり。
彼の作るチーズケーキは美味しかった。
彼はさっきから紅茶しか啜ってない。
全部あげるって言って一口も食べない。
私の食べる様子の何が面白いんだか、彼は独りで悦に入っている。
取り分けられたチーズケーキを食べ終わる頃にお代りを聞いてきたので、折角なので貰うことにした。
彼がケーキに包丁をさす。
「ここに連れて来て初めて笑ったね」
「え?」
「ここに連れて来て、キミの笑顔を初めて見たよ」
いつの間にか私は笑っていたらしい。

「ケーキ、ありがとう。美味しい」
お礼を言うと彼は顔を真っ赤にさせて照れていた。
「言ってくれればいつでも作るし。あっ、もっと作ろうか」
「そんなに食べれないから」
「じゃ明日にでも」
「たまに食べるからいいんだよ」
「そっか」
彼は寂しそうに微笑む。
「キミが望むなら、なんだってするよ」

考えてはいけない。
とても小さな声だったので私は無視した。

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