短編

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最初は寝返りを打つのが大変だったが、今では手錠をしながら一緒に寝るのにも大分慣れた。
目を覚ますと、いつも必ず彼の方が先に起きていて、私を見ている。
「おはよう」
「…おやすみ」
「ほらほらもう朝だよ」
しかたなく起きる。

最初の頃は本当に大変だった。
私をベッドに引きずるなり、抱き着いて離れない。
それがあまりにもきつく、息が苦しくなって吐きそうになる手前でやっと緩めてくれる。
私の首のすぐ後ろに彼の顔があって息があたるので、噛まれるんじゃないかって、すごく怖かった。
だから動けず、じっとしていた。
最近は私が大人しいからか、飽きたのかは判らないけれど、抱き着いてこない。
代わりに、手を握ってくる。
きつくしっかりと、逃げられないように。

「考え事?」
気付けば、彼が空ろな目で私を覗き込んでいた。
驚いて身を引きつつ、なんでもないよと答えた。
「…そう。今、朝ごはん作るから」
待ってて、と彼はキッチンに消えた。

今日も彼と同じベッドで寝る。
ベッドで横たわりながら、隣で幸せそうなウットリした顔で私から目を逸らさない彼を見ると、私は錯覚を起こす。
これは夢なんじゃないか。
起きたら元の私の部屋で、何も無かった。
何も無かった。いつもの日常。
あはは、なんてね。

私の手を握る彼の手と私の手首と彼の手首にかかる手錠が私に夢を見させてくれない。

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