短編

□苦手な食べ物
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彼の手料理は美味しい。とても。

最近気付いたが、彼は私の苦手な食べ物を食卓に出さない。一度も。
私は結構な偏食家で、両親や友達からよく文句を言われていた。
マヨネーズが駄目、酢の和え物が駄目、キノコはシイタケとナメコとエノキダケ以外は全部駄目、他にもある。
最初は両親も私のこの偏食っぷりを直そうと努力してくれていたが、あまりにも成果がないものだから諦められた。

彼は私が何が苦手で食べられないなんて一切知らないはず。
彼は、私が前に会った事さえもない、知らない男なんだから。

夕飯を作って席に着いたところの彼に聞いてみた。
「なぜ私の嫌いな物が分かるの?」
「なぜそう思うんだい」
彼にしては珍しく、すぐ答えなかった。
「ここには私の嫌いな食べ物がないから」
テーブルの上にも、冷蔵庫にも、キッチンの戸棚にも。
すると彼はいつかの狂気染みた目をしていた。
小さく肩を震わせ、声を押し殺して笑う。

「ボクはキミのことなら何でも知っている」

「だって愛しているから」

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