今日も明日も明後日も

□言葉はやっぱり必要ですか?
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「あなたが、伊織さん?」

『あなたは…』

「新ちゃんの姉の志村妙です」

『あ…初めまして。田村伊織です』

 万事屋の玄関にて。

今日も仕事に出かけていった3人を見送った後の万事屋で掃除と洗濯に追われていたところ、玄関のチャイムに呼ばれた。
依頼のお客さんかと思い、急いで出てみれば綺麗な女の子が立っている。

名前を当てられ、首を傾げれば彼女は新八の姉だと言った。
確かに、言われてみればどことなく似ている。

「いつも新ちゃんがお料理を持って帰ってくるものだから、いつかお礼をしなくちゃと思っていたんです。ずいぶん遅くなってしまったんですけど。
コレよろしければ銀さんと神楽ちゃん達で食べてください」

 そう言って差し出されたのは有名なお菓子屋の包装紙に包まれた箱。

『あ、え…いや。そんなとんでもないです。私が無理やり新八君に渡してるだけで……すみません、逆に気を遣わせてしまって』

「ふふふっ、」

 妙は、とても上品だった。
しぐさの一つ一つが綺麗で、自分とは大違いだと伊織は心の中で自己嫌悪に陥った。

笑い方の一つでも様になっている。

『あ、よければ上がっていきません…?』

 今は私しかいないですけど…。ええ、ぜひ伊織さんとお話ししたいわ。

と、自分とは全く違う人種の妙に興味を惹かれて家の中へと招き入れた。

『はい。コーヒーでよかった?』

「ありがとう」

 事務所のソファーに案内するまでに敬語はやめてほしいと言われ、お互い敬語も敬称もなしになった。

向かいのソファーに座って改めて妙を見るとやはり綺麗な子だと思う。
さすが夜の仕事をしてるだけはあるなー、と勝手に納得した。

「伊織は、銀さんとお付き合いしているんですって?」

 ニッコリ、という音が聞こえてきそうなほど良い笑顔で妙はきりだした。

『ええっ…、新八君が…?』

「ええ。新ちゃんも、銀さんがずっとあなたがいなくて元気がない事を気にしていた様だから…よく話は聞いてたの」

『そうだったんだ‥‥‥あ、いや…でも、私と銀さんはそんなのじゃないから』

「あら?違うの?」

 心底驚いた顔で彼女は首を傾げる。
違うのかと問われても、自分には違うとしか答えるものを持っていない。

じゃあ、なんだと聞かれても“何”とも答えられない。



私はなんだろう。

でも、そうだな、私は…

『私は、銀さんの荷物を少しでも背負ってあげたいと思ってる。かな…』

「‥‥‥‥‥」

 少しでも、一つでも、私があの人の荷を持てれば…背負えれば…。
欲を出せば、あの人を支えてあげられれば、と。

ただそれだけだ。見返りも、何もいらない。

「そう。もったいないわね」

『え?』

「伊織なら、あんなちゃらんぽらんじゃなくても放っておかない男はたくさんいるでしょうに。本当、もったいないわ。どうかしら今度ウチのスナックに一度、手伝いに来ない?」

『それは、依頼として?』

「ええ。ちゃんと依頼料は支払うわよ。今人手が少し足りなくて…、実はこれを頼もうとして来たのもあるの」

 どうかしら。妙は相変わらずニコニコと笑っている。

依頼料を支払うと言っているし、これは受けないワケにはいかないような…前にもお登勢の手伝いを一度したことがある。



――ガラガラ…

「ただいまヨー」

「かえりましたー」

 どうやら3人が帰ってきたようだ。
途端にばたばたと騒がしくなる万事屋に、自然と笑みがもれた。

「伊織!姉御が来てるアルか!」

「神楽ちゃんおかえりなさい、お邪魔してるわ」

 一番駆けで事務所に飛び込んできた神楽ちゃんは妙の元に走ってくるとその隣に勢いよく座る。

その後から新八と最後に入って来た銀時は伊織の隣にドサッと腰掛けた。

『おかえり、みんな』

「おー。
あー、疲れた」

『お疲れ様、お茶淹れるね』

「俺いちご牛乳な」

『運動後に糖分もいいけど、今日はお茶にしてね』

「へいへい」

 はー。とため息を吐く銀時をよそに伊織は人数分のお茶を淹れに台所へと立ち上がった。

その後を新八も手伝うとついて行く。

「まあ。本当に新ちゃんが言った通りですね」

「あ?」

「銀さんと伊織がまるで長年連れ添った夫婦みたいだ、って。本当にその通りだわ」

 なんだそれ。と、銀時は首をひねる。

そんな様子に元々浮かべていた笑みを一層深くして妙はなおも続けた。

「銀さんの奥さんにするにはもったいないわ。今からでも新ちゃんの奥さんになってくれないかしら」

「なんかいろいろツッコみたいけど、まず俺と伊織は夫婦じゃないから。むしろ付き合ってるわけでもないし。つーか、新八に渡すぐらいなら俺がもらうけど」

「本当に伊織と同じこと言うんですね」

「同じ?」

「恋人じゃないって。伊織もそう言ってましたけど、銀さんは本当にそれでいいんですか?」

 言っていることを理解しているのかいないのか、何食わぬ顔で鼻に小指を入れた目の前の男に妙は呆れ返るしかなかった。

「そんなんじゃ、いつか本当に伊織が奪われでもしたら文句言えないですよ」

「そん時はそん時だろ。その方が伊織も幸せかもしれねーし」

「‥‥‥‥」

 妙は言葉を失った。
誰がどう見ても銀時も伊織もお互いを好き合っているのは目に見えてわかる。
にも関わらず、一緒になろうと考えるばかりか、ただ一緒にいるだけ。

少し圧をかけても何食わぬ顔をするばかり。

そんな中、隣に座ってずっと二人の会話を聞いているだけだった神楽が口を開いた。





 
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