今日も明日も明後日も

□男と女は関わるとたいてい面倒くさい事になる
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 こんにちは。山崎退です。

先日、屯所中に沖田隊長がふれまわったせいで隊士全員に彼女ができたことを知られてしまった副長。
あの日から数日経った今日、そんな副長のデート現場を押さえようと俺、山崎と局長それに沖田隊長が現在進行形で副長を尾行しているんだけど。

「局長…ホントに尾行するんですか?」

「何を言っているんだ、山崎!あの不器用な男の事、俺達がフォローしてやらないで誰があいつのデートを成功させるんだ!」

「ちょ、声でかいですって!」

 慌てて局長の口を押さえて、前方の駅で彼女を待つ副長を見れば気づかれてはいないようだ。

「沖田隊長も局長を止めてくださいよっ。このままだと副長のせっかくのデートが台無し…」

「山崎ィ…俺は今日、あのヤローが隙を見せた瞬間を狙ってるんでィ。邪魔すんなよ。」

 むしろこっちも違う気合入れちゃってるゥゥゥ!

バズーカを構える姿に今日の自分、死んだ…と確信した。
馬鹿二人をとてもじゃないが制御しきれる自信がない。


ふとそこへ、副長に近づいていく誰か。

「あ、ちょ、局長、沖田隊長!あれじゃないですか。副長のお相手、」

 ものすごい勢いでこちらを振り向いた2人の形相は一生忘れられない。



『と、十四郎さんっ、お待たせしてごめん!』

「あ、いや…今、来たところだ。」

 いや、あんた一時間前から待ってたからァァァ!と山崎は心中でツッコんだ。

改めて、副長の相手の女性を観察してみた。
黒髪はシンプルにひとつでまとめられていて、化粧も…年齢にしてみれば薄くて多分ファンデーションを塗る以外は何もしていないだろう。
身にまとう着物は青を基調とした、それなりに上質の物。


いたって普通の女性だった。
普通すぎるくらい。

想像していたゴリラっぽい人間とは全く違う…。
背も、土方さんよりずいぶん低くて年上になんて見えなかった。


「くっ、俺もお妙さんと…っ、」

「局長…、今日は副長のフォローするんでしょう」

「しかしザキィ…」

「はいはい、帰ったらいくらでも話は聞いてあげますから」

 とりあえず、号泣しだした近藤さんは置いておくことにする。

そこで俺は、さっきからなぜか静かな沖田隊長に振り返ると。



「…伊織…さん…?」

 珍しく驚いた様子の隊長がいた。

「どうした、総悟。なんだ…知り合いか?伊織さんと。」

「――いや、なんでもありやせん。人違いだったみたいでさァ」

「いや、さっき名前呼んでましたよね」

「黙れや。」

「はい」

 目がマジだったんですけど。殺られるかと思ったんですけど。

とりあえず、と移動しだした副長たちを追いかけた。









『疲れて、ない?ずっと仕事だったんでしょう』

「あ?疲れてねーよ。こんなので疲れてたら真選組の副長なんて務まんねェよ」

『でも、あなたも“人の子”でしょ』

「ハッ、ちげえねぇ」

 なんだか俺たちがフォローしなくてもいい雰囲気なんだけど。

副長たちの雰囲気が俺には甘すぎて吐きそうだ。


不器用な副長をうまく年上の彼女がさりげなくフォローしている。

『十四郎さん、私、江戸は久しぶりで…今日はどこに連れて行ってくれるの?』

「丁度昼だし、俺が良く行く定食屋でいいか?」

『じゃあ、私焼肉定食』

「結構がっつりいくな、お前。太るぞ?」

『酷っ、ちょっと気にしてるのに…』



 ――くくくっ、と笑う副長がまるで別人に見えた。

「あの人、あんな風に笑う人だっけ・・・」

「凄いな、伊織さんは。トシがあんな穏やかに笑ってるところなんて俺は江戸に来てから見たことがない。」

「局長も?」

「……」

 相変わらず沖田隊長は無言で何を考えているのかわからなかったけれど、局長が言ったように今はあの副長の変化に驚かずにはいられなかった。

いつも煙草咥えて眉間に皺寄せて……視線だけで人を殺せそうなあの人が今は煙草も持たず、鋭い目つきも心なしか穏やかだ。
鬼の副長、どこいった…だ。

常に張りつめた気もすいぶんと柔らかくてまるで別人。


――これは。本当に真面目にあの人を応援したくなった。

願わくば、このままうまく事が運んであの伊織さんと副長が一緒になれば…。
あわよくば俺への副長の当たりも優しくなりますように。と思わずにはいられなかった。


「(――頑張ってください、副長。)」





 
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