今日も明日も明後日も

□女中のお手伝い
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「ザキ、飯食いにいくぞ。」

 なんて俺に声をかけてきたのは、局長。隣に沖田隊長も一緒で。

「きっとお前ら驚くぞォ。」

 なんてよくわからない事を言いながらニヤニヤとしている局長に、俺も沖田さんも首を傾げるばかりだった。

――ガヤガヤ…

「なんでィ。いつもより騒がしいな。」

 沖田隊長が言うように、確かに食堂がいつもより賑やかで。
中に入ればそこは中のカウンターへ群がる隊士の姿。

いつもそこで女中のおばちゃんが食事を配っているはずだけど…

「じゃあさ、じゃあさ、好きな人とかいるの!?」

「あ、いないなら俺立候補する!」

「何言ってんだ、俺が立候補するっつーの!」

 いや俺が!いやいや俺が!なんていつもじゃ見られない光景に俺も沖田隊長も目を丸くするしかなかった。

あそこにいるのは女中のおばちゃんじゃないの?え?なに、もしかして皆おばちゃんに迫ってるの?そこまで飢えてるのか、真選組は…。

残念ながら隊士の背中ばかりでその先にいるハズの人物の顔までは見えなかった。

「近藤さん、もしかして新しく若い女中でも雇ったんですかィ?」

 沖田隊長が苦い顔で局長に聞いている。
隊長の表情の理由もわからなくはないけれど…なんせ、屯所に入ってくる若い女中はほぼ男目当てだからだ。
真選組の中でも沖田隊長や副長は顔立ちも良いから彼女らの標的になる事は確実。

毎回、それが原因で解雇するのだから仕方がない。

「ん?まあ、正式に雇ったわけじゃないけどな。今日だけ一日限定だ!」

 出来ればこのまま採用してもいいんだけどなあ。ガハハハハハッ!なんてのんきに笑う局長の言葉に、そこまで局長に言われる人物が気になった。

一体誰が…

「お前ら、そこまでにしないか。
伊織さんもずいぶん困っているようだぞ。――なあ、伊織さん!」

『こ、近藤さん…』

 モーゼのごとく、局長の言葉と共に隊士の背中が注目の人物まで一直線で開けた。

その先には、今局長が呼んだ人物…伊織さんが本当に困った顔で存在した。

「え。ええええええっ!伊織さんって…局長…」

「おう!お前ら、伊織さんはあの噂のトシの彼女だ!手出したら切腹だから気をつけろ!」

「「「「「えええええええええええッ!!!」」」」」

 ビクッと肩を震わせる伊織さんから、俺は目が離せなかった。

藤色の着物に白い帯は控えめな形で結ばれ、艶のある黒髪は綺麗に一つにまとめられている。
これほど近くで彼女を見るのは初めてだ。

なるほど、確かに背も少し低くて年上には見えないな。容姿も特別可愛いわけでもないけれど…

「誰かと思えば伊織さんじゃねェですかィ。」

『…そ、うご…君…!』

 え。と、驚いていれば、局長の後ろから歩み出た沖田隊長が伊織さんの目の前まで進んだ。

静かに事の成り行きを見守る俺ら。
邪魔すると何されるかわからないからだ。けど局長は別で。

「なんだ総悟、伊織さんと知り合いか?」

「まあ、茶飲み仲間ってやつでさァ。お久しぶりですねィ、伊織さん。」

『総悟君も…元気そうでよかった。』

 小さくほほ笑む伊織さんのまわりにまるで花が舞ったような幻覚を見た。

確かに、この笑顔は可愛いかもしれない…


「まだあの甘味屋に行ってるんですかィ?」

『いや、花ちゃんと喧嘩しちゃって…』

「じゃあ、今度よけりゃ一緒について行きやすよ。」

『え、いいの?ありがとう。』

 あの沖田隊長が、なんの含みもなく笑っている。

俺や周りで見ていた隊士たちは今、雷を撃たれたような背景を背負っているに違いない。
あの沖田隊長が、だ。

2人はそれなりの付き合いのようで、昔話に花を咲かせ始めた。

「あの店、最近パフェなんてモン置き始めたんでさァ。」

『え?パフェ?』

「なんでも、食べにくる客がいるから置いてるんだって言ってやしたねィ。」

『え、そうなの?一体誰があの和菓子屋に…』

「まだ一度も来てないらしいでさァ。」

『え…?』

 一体、いつまでこの2人の世界を見続けなければいけないのだろう。
確か俺たちは昼飯を食いに食堂に来たはずなんだけど…

ふと俺はそこでこの食堂へと近づく足音に気づく。

監察で培われた洞察力はこの足音が副長のもだといっている。




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