今日も明日も明後日も
□万事屋という職業に就く彼のそばにいる覚悟をしよう
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『……――ふ、…はい、終わり』
「ぇ、ぇえええええ!?」
『えええええ』
「なんで伊織が驚く!?」
『あ、や…銀さん顔真っ赤だし…』
一気に後ずさって伊織と距離をとった銀時は、平然としたままの伊織にものすごい違和感を感じるしかなかった。
自身の顔が赤いなんて言われなくてもわかっている。
「神楽ちゃん、今日はウチにおいで」
「わかってるアル」
『え!!?ご、ごめん!二人とも帰ってたなんて知らなくてッ』
新八と神楽の声が耳に入ってくると、途端に焦り出した伊織に先ほどの違和感がなお強くなったように銀時は感じた。
「…あ…?」
ふと、銀時は先ほどまで毒で朦朧としていた意識がはっきりとしていることに気づいた。
そんな原因は今の流れから考えると伊織しか思い当たらないわけで…
「伊織、今なにした」
「銀ちゃん、そんな事わざわざ聞くなんて野暮なマネしちゃいけないネ」
「俺、伊織ちゃんがキスしてきたように感じたんだけど…夢?」
『それはそうなんだけど、今のキスとはちょっと違うからね。ただの解毒、身体…楽になったでしょ』
「それは、そうだけどよ…え?ちょ、なに?このリアクションは俺がおかしいの?アナログスティックが反応する俺がおかしいのか?――ぅごうッ!!?」
意味が分からなかった。
今のはただ、伊織と自分の唇が重なっただけのような気がするのだが…銀時は激しく混乱している。
「ぎゃあぁ!銀さん!!」
「今のは銀ちゃんが悪いね。下ネタぶっこめば笑いが取れると思うマダオが」
神楽ちゃん辛辣!なんてツッコむ新八だが今、伊織が銀時の尻めがけて蹴りを入れたように見えたのだが…あの優しくておとなしい彼女が、だ。
えええええええ。と、新八は驚かずにはいられなかった。
しかし、隣にいる神楽はまるで何もなかったかのように自分たちのいる入口まで飛んできた銀時をつついている。
「テメェ…普通、怪我してる奴…蹴るか」
『銀さんなら大丈夫かなと思って』
「大丈夫じゃねーよ!さっきまでしおらしく泣きそうな顔してたくせによォ!」
『それは……――ほら、もうご飯食べようよ』
喧嘩なわけじゃないけれど、大人二人の掛け合いに冷や冷やしながら見ていればあっさりとため息を吐いた銀時が立ち上がって食卓に着いたことにより幕切れとなった。
新八はその様子を呆然と見ながらも、自分もイスへと座るのであった。
『銀さん、今回の依頼…』
「あ?ああ、もう終わったよ」
「あの蔵から息子さん出てきたんですか?」
「おう。あの組長、余命が残り少ないらしくてな…それ聞いたらすぐ出てきたよ。まったく、俺らいらなかったんじゃねってくれーあっさりだったぜ。…ま、依頼料はしっかりもらえるからよかったけどな」
新八から今回の依頼内容は魔死呂威組というヤクザの引きこもりの息子を引っ張り出すと言うものだったと聞いた。
隣では新八や神楽が良かったと銀時と話しているけれど伊織は、銀時が嘘をついていることになんとなく気づいた。
あんな怪我をして帰ってきて、依頼が無事に済んだとは思えないのだ。
それから、新八も帰り神楽も寝静まったあと、怪我をした銀時を無理やり寝室の布団に寝かせると事務所は静まり返った。
もう一度寝る前に包帯を巻きなおした後片付けをさっさとすませていく。
『‥‥‥‥』
万事屋の仕事は決して、犬や猫さがしなどの楽なモノばかりじゃないのをわかっていたつもりだった。
けれど、今日のようにあんな怪我をして帰ってきた銀時を見ると心臓が止まってしまうかと思った。
この万事屋にいるのならば、彼の傍にいるのならもう少し覚悟が必要なのかもしれない。
もう、誰かがいなくなるのは嫌。
もう、護れないのは嫌。
後悔するのは、嫌だ。