今日も明日も明後日も

□2年の月日は短いようで長い
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「まあ、土方さんたら緊張なさっているのかしら。」

「ガハハハハ、この男はなにぶん無愛想な男ですからな!」

 フフフフッ、ガハハハハ、という母さんと相手の仲人である近藤さんの笑い声が響く。

けれど、私は一度も顔を上げることが出来なかった。
目の前の相手の男性も一度も声を発していない。

「ほら、伊織。ご挨拶しなさい。」

 ポン、と背中を叩かれれば無視するわけにもいかないので渋々顔をあげて挨拶しようと少し息を吸い込んだ。

…まま、止まる。


『――、ぎっ…ん…』

「ぁあ?」

「こら、トシ!そんなに彼女を怖がらせるんじゃない!全くもう、この子はこれだから…」

「あんたは俺の母親か。」

「とにかく、だ。そんなに怖い顔してたら彼女に失礼だろう。お前も自己紹介ぐらいしないか。
――ん?どうかしましたか、伊織さん。」

 ――…一瞬。ほんの一瞬だけ、目の前の彼が“あの人”に見えて…。
髪の色も、瞳の鋭さも全くの正反対なのに…どうしてか、彼とあの人がダブって見えた。

言葉をなくした私に、彼の隣に座るゴリラのような人が様子に気づいて声をかけてくれるが大丈夫だと返す。

『初めまして…田村伊織、です。』

「土方十四郎だ。」

 それきり、私たちの会話は途切れた。

「もう、この子ったら人見知りで…すみません。
土方さんはあの真選組の副長さんなんですよね。」

「そ、そうなんですよォ!この男がいるから真選組は成り立っているようなものでねェ…」

 そんな2人の気を利かせた会話もほぼ耳に入って来ず…私はただひたすら目の前の彼を見つめ続けた。

「アラ?伊織ちゃんったら、もうそんなに見つめちゃって…じゃあ、あとは若い2人に任せましょうか。」

『え…?ちょ、母さん…、』

「じゃあ、伊織ちゃんお母さんは先に帰るわよ。土方さんとしっかり愛を語り合いなさい。」

『あ、愛ってッ!』

 引きとめてもむなしく、母さんと近藤さんは揃って退出してしまった。

残ったのは気まずい雰囲気と、無言の男性と焦る私。

「おい、お前。」

『…はい。』

「マヨネーズは、好きか?」

(それよりアンタ、パフェは好きか?)
(え!?は…はい…)

『は……い?』

 そんな彼との最初のまともな会話が、またあの人とダブった。





 
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