薬指にキスを

□みっつめ
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僕と彼女を照らし出す、この月が朝日に変わるまでに
僕は彼女の心臓を止めなければいけない。
それが僕の役目だ。




「ルハンはとっても綺麗な顔をしてるのね」




弱々しく、そう呟くと蒼白い指で僕の輪郭を微かになぞる○○。




「硝子細工みたい、私が強くルハンを抱きしめたら壊れちゃいそう」




違う、硝子細工のように脆くて、強く抱きしめたらパリンと音をあげて壊れてしまいそうなのは君の方だ。



「私ね、ずうっとひとりぼっちだったの」



白いワンピースから薄らに透けている君の背骨が如何にも不健康で、




「私を産んでお母さんは死んでしまって、幼かった時からの病気はどんどん私を蝕んでいって、周りの人達は伝染病だとか伝染ると死んでしまうと噂建てて、周りからいかにも嫌な目で見られるようになった私をお父さんはここに閉じ込めたの」




そこまで話すと、彼女はすうっと大きな息をして肩を揺らした、そんな話をするなんて○○は僕に、心を許してくれているということなのだろか。




「友達も出来たことはないし、恋をしたこともなかった。人と接するのは一日一度食事を届けてくれるお父さんからパンを恵んでもらう時だけ、だから嬉しいの。
早くここから出て行きたかったから」




無性に僕は彼女にキスをしたくなった。
彼女に愛の言葉を送りたくなった。
彼女に幸せだけを送りたくなった。
彼女を取り巻くすべての不幸を僕の中に取り込んでしまいたくなった。
彼女に綺麗な海を見せたくなった。




でも、僕にはどれ一つ彼女にしてあげることは許されないんだ。





「でもね、少し死ぬのが怖くなってきたの」



「・・・どうして?」



「貴方とお別れしたくないの、ルハンの腕の中はとても安心するの」




僕は、彼女に、彼女の蒼い唇に口づけをした。
短く、触れ合うだけのキス。
哀しい程愛おしいこの行為に耐え切れない程の
罪悪感が僕を襲った。




「ありがとう、ルハン」




そう優しく微笑みを見せる○○は、今まで見てきた何よりも美しかった。




僕も君とお別れしたくない。





でも、タイムリミットは刻一刻と迫っている。
少しずつ窓の外は明るくなっている。






「ルハン、私を殺して?きっとこれが運命なら生まれ変わって、また会えるはず」






純粋な彼女に、生まれ変わりなんて存在しないなんて、運命の出会いなんて有り得ないなんて
そんなこと言えるはずなくて。
分かっているはずの、ありえない奇跡を僕は今だけでいいから願いたいと思ってしまった。







(ただ抱き締められるだけで良いんだ、それ以上は望まない、だから)







どうか、生まれ変わったら人間にしてください。

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