×8!!〜

□57.危険なやり取り
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「全治6週間ね」


目を覚ますと、唐突に波江さんは私にそう告げた。
始めは意味が解らなくて首を傾げたものの、直ぐに足の怪我の事を言っているのだと悟った私は神妙な面持ちでコクリと頷く。


「肋骨の方は、多少生活に不便は来(きた)すかもしれないけれど激しい運動でもしない限りは問題ないわね。足は動かせるようになったらリハビリを怠らない事。
まあ、後は臨也が何とかしてくれるんじゃないかしら」

「ありがとう、ございます」

「礼なんか言われる迄も無いわ。貴方を診断した分の給料は臨也にちゃんと払わせるから」


流石波江さん。抜かりない。
颯爽と去って行く彼女に会釈をしようとしたけれどー


「痛っ」


肋骨が少し痛んだのでやめておいた。


♂♀


「やあ、体調はどう?」


次に入って来たのは部屋の主、臨也さん。


「波江から聞いたよ。全治6週間だって?暫くは動けないね」

「そうですね。でも車椅子とか松葉杖は欲しいです」

「んー、車椅子はまあ良いとしても、肋骨が治るまで松葉杖は使えないんじゃない?」

「……そう、ですね」


私自身の事なのに、臨也さんの方が色々考えていて少し悔しくなった。


「ま、車椅子は明日にでもどうにかするとして。
お腹空かない?波江が作ってくれたけど」

「……じゃあ、頂きます」

「解った。持って来るから待ってて」


臨也さんはそう言って部屋を出て行く。
私はというと、臨也さんが優し過ぎて混乱していた。
あの人がこんなに優しいだなんて、折原臨也と言う人間からアイデンティティを無くしたようなものだ……と思う。
此処まで親切だと返って気味が悪いと思うのは私だけではない筈だ。


「持って来たよ」


眉目秀麗と言う言葉が似合うその青年は、貼り付けたような笑みを浮かべてそう言った。
それを見て私は確信する。
「ああ、これは何かあるな」と。

臨也さんは机をベッドの脇に設置して食事を置くと、自分は私の枕元付近に腰掛けた。
そしてー


「はい、口開けて」


箸とおかずを手にしたまま、ニヤニヤとした笑みを浮かべている。


「……は?」


何 が し た い の こ の 人。
私は足が使えないだけで手には異常ないからこんな介護いらないんですけどッ。


「……冗談ですよね?」

「俺はいつでも本気だよ?」

「……」


私は思わずこめかみに手を押さえた。
馬鹿じゃないのかと罵ってやりたい位です、切実に。
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