×8!!〜
□54.闇に呑まれて
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「え?珠音ちゃん一緒に行かないの?」
「はい。ちょっと5時から人と会う約束をしていて……」
あの後、正臣君が『露西亜寿司で食べよう』と提案してくれたのだが、現在時刻は4時30分。そろそろ行かなければ、流石に臨也さんに怒られてしまう。
だから私は、彼らについて行く事を諦めた。
「そうっすか……残念です。俺、もっと珠音さんと話したかったんですけど……」
「うん……ごめんね正臣君」
「良いっすよ。また今度会いましょう」
「ッ……」
その言葉に、ズキンと心が痛んだ。
次に君に会えるのはいつになるんだろう。
会えたとしても、私が外に出る時には必ず臨也さんか波江さんが傍にいる筈だから、きっと今迄みたいにちゃんと話は出来なくなる。
それでも私は、
「うん。また今度ね」
叶う事のない約束を交わす。
「んじゃーな、珠音」
静雄さんは、私の頭をポンと撫でてからトムさんと正臣君とヴァローナさんと共に行ってしまった。
そうだ。何で気付かなかったんだろう。
これからは臨也さんと波江さんとしか外に出られないという事は、ほとぼりが冷めるまでは静雄さんにはもう会えないかもしれないんだ。
だって、臨也さんは静雄さんの事嫌いだし。
正臣君なら、臨也さんが一緒だったとしても会えるには会える。でも静雄さんはそういう訳にはいかない。
一方の波江さんは、あまり目立った行動は出来ないんだろうから、人目を避けるだろうし。
もう、会えないの?
目頭がジーンと熱くなる。
駄目、泣いちゃ駄目。
何度も自分にそう言い聞かせ、私は必死に涙を堪えた。
いつから私は、こんなに涙脆くなってしまったのだろう。
あの頃はあんなに強かったのに。
……いや、あの頃も別に強い訳じゃなかった。ちょっと触れたら簡単に壊れそうな位に弱かった筈だ。
強くなりたい。
精神的にも、強く。
その時、私はすれ違いざまに誰かに腕を引っ張られて路地裏に連れ込まれた。
「ちょっ……!」
声を発しようとした途端に、口に湿ったハンカチのような物があてがわれる。
吸っちゃいけない。
解ってる筈なのに、突飛な出来事過ぎて身体がついていかない。
私の意識はどんどんと霞んで行った。
(……助けて)
♂♀
「……あーあー、それ見た事か」
電話で誰かからの報告を受けていた黒コートの青年は、通話を終えた後、苦笑しながら独り言を呟いた。
「ヤクザすら絡まない、チンピラ相手のゴタゴタでこのザマだよ。災難だねえ。
新羅も……珠音も」
男は座っていた椅子をギシリと揺らして立ち上がり、窓の外に見える景色に目を向けた。
池袋の駅に近い、とある高層マンションの最上階。
池袋駅を中心とする町の光景を眺めながら、男はニイ、と口元を歪めると、御馳走を目の前にした子供のような感情を声の中に含ませー独り言を吐き出した。
「やっぱりみんな、俺がいないと駄目なんだから」