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□ふとした優しさ
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「はぁっ。」
仕事で疲れてクタクタなのに、今日に限って何もいっぺんになくならなくたって。しかも重いものばかりを買わざるをえない。
重い荷物と重い足どりで家路へと急いでいると、急に誰かに荷物を奪われる。私がびっくりして顔を上げると、
「バカだなぁ、なぁーんで重いものばっか買ってんの ?」
え?ヒロト?
「どうしたの?」
「どうしたの?って俺も帰るとこだけど…」
「ふーん。最近見ないなーって思ってたから。い ろ い ろ と忙しそうだしね。」
私はわざと意地悪そうな笑みを浮かべて言った。
夜は帰ってくるのが遅いらしいし、私は彼女でもできたんじゃないか?と、思っていた。
「仕事だよっ。俺は仕事が忙しいの!おまえだって、荷物持ってくれる奴くらい居ないのかよ?」
なにをムキになっているの?
「…いるよ。」
せっかく忘れかけていた事を…忘れられたらどんなにいいか。
私の言葉にヒロトは意外そうな顔をして、
「いるんだ。聞いてねー」
と呟いた。
別に報告しなければならない訳ではないし、なんとなく黙っている形になっただけで…
最近、彼に全然会えなくてかなり落ち込んでいたので、ヒロトのせいでそのことを思い出してしまった。
私はそんな自分の心情をヒロトに悟られたくなくて、わざと元気に言う。
「はい、残念でした。」
「全然残念じゃねーし。」
「……残念がってよ。」
なんだかこんなやり取りも懐かしい。
こんな風にヒロトと話したのはどれくらいぶりだろう?
ヒロトは自分の家の方が近いのに、わざわざ私の家の前まで荷物を運んでくれた。
「疲れてたからすごく助かったよ。ありがとう。」
「あんま…無理すんなよ。」
私は、久しぶりに誰かに優しい言葉をかけられてなんだかジンとしてしまった。
実は最近、仕事もプライベートもいっぱいいっぱいで張りつめた毎日を過ごしていたから、余計にヒロトの言葉が身にしみた。
ヒロトはそれに気付いて言ったのだろうか?
「うん。ヒロトもね。おやすみ。」
「おやすみ。」
ヒロトは歩きながら背中で手を振って帰っていった。
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