マヨネーズ王国の入り口

□束縛
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俺は用がなければ電話もメールもしない。
みかは出会った頃は何かにつけて連絡をよこしたものだが、付き合い始めたらそういったことは一切なくなった。だから、俺の都合に全て合わせて二人は逢うといった感じが常なのだ。


「何故お前からは一切連絡してこないんだ?」


俺は今まで抱えていた疑問をみかにぶつけてみた。


「どうしてそんなこと聞くの?」


どうして?
女とは、やたらにメールやら電話やらをしてくる生き物なんじゃあないのか?


「その、女、の枠にハマりたくなんかないのよ。世の中の女と私を一緒にされるのは心外だわ。」


口ではああ言っているが、本当はものすごく寂しがりなのを俺は知っている。
みかはとても気を遣う女だ。
大方、俺に迷惑をかけるとでも考えて、あえて1人でも大丈夫と思わせるような言動をしているのだ。今の状態のみかは…


「それとも、私に毎日のように連絡して欲しいというの?」


「いや、別にいいんだけどな…」



*****



ある日の深夜、急に電話が鳴る。
携帯の着信画面にみかの名前が出て
いる。


「トシ…こんな時間にごめんね。」


酔っているのかみかは少し舌足らずな口調で俺の名を呼ぶ。


「どうした?」


「どうもしない。」


みかはそれだけ言うと黙りこくった。しばらく沈黙が続く。


「電話なんだから、話ししないと意味がねーだろう?」


「うん…」


返事はするものの、一向に話す気配のないみか。再び沈黙が続きしばらくするとみかはポツリと話す。


「つながっているだけでいいの。それだけでいいから…少しだけ…」


そして再び沈黙が訪れる。


「オイ、なんか話せよ。声を聞かせろよ…」


宥めるようにやわらかく語りかける。
またしばらく沈黙が続いていたと思ったら、携帯の向こうからすすり泣く声がかすかに聞こえる。


「どうした?」


俺はなるべく優しく聞いてみる。
なんで泣いているんだ?
何があったんだ?


「別になにもない。」


泣き声のクセに強がっている口調でみかは言う。


「泣いてるんだろ?なにもねーって訳ねェだろ!?」


なんだか心配になって少々口調が強くなってしまう。
みかはずびびと鼻をすする。


「ただ電話してみただけ…こんな時間にごめんなさい。」


酔った舌足らずの泣き声が淡々と話す。


「じゃあ、なんで泣いているんだ?」


「なんでって…」


みかはそう言ったきり黙りこくる。


「黙っていたらわかんねーだろ?」


幼子を諭すように俺はみかに優しく言う。


「だって、声が聞きたかっただけなのに…聞いたらもっと…」


言葉は続かずそのまますすり泣く声が向こう側から聞こえた。


「わかった。」


俺はそれだけ言って電話を切る。



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