マヨネーズ王国の入り口
□たまにはのんびりと
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ある休日の昼下がり
私は、梅の小紋柄の着物を身につけ、一人特にすることもなくてぶらぶらと散歩をしていた。
空気が冷たくて陽の光はあたたかくて、穏やかでとても気持ちのよい陽気だった。
あてもなく歩いていると、なんだかお茶を飲みたくなり、そこの角を曲がったところの河辺の茶店に足をのばすことにする。
すると…
見慣れた隊服に、見たことのあるアイマスクをしている人が、茶店の外の長椅子で昼寝をしていた。
「沖田さん。」
私は沖田さんを見下ろし声をかける。寝そべったままでアイマスクを少しずらして、沖田さんは不機嫌そうな表情で私を見た。
「……ったく、誰でィ。」
「こんにちは。」
沖田さんは私に気付くと驚いた顔をした。
「……誰かと思いきや、みかさんじゃねーですか。着物姿なんで全然わかりやせんでしたよ。」
「そうだね。いつも沖田さんに会う時は洋服の時か、仕事用のスーツの時ばっかりだもんね。」
私はそう言いながら沖田さんの隣に腰を下ろした。
「サボっているんですか?」
「俺はサボってなんかいやせんぜ?」
沖田さんは起き上がって伸びをすると、肩をトントンと叩いた。
「今日は1人ですかィ?」
「うん、人に会うのもいいけれど、たまにはのんびり過ごすのもいいかなって。」
川を見つめて他愛ない世間話を交わす。
ちょうど日溜まりになっているそこはとても気持ちよくて、私と沖田さんは大きな欠伸をした。
「昼寝には最適の場所だね。」
私はそう言うと、お店の人にお茶とお団子を注文する。
「……誰かさんがジャマしなければねェ。」
沖田さんは半開きの目でチラリと私をみる。
「あはは、ごめんね。」
ほどなくして、お店の人がお茶とお団子を持って来てくれる。
私がお茶を一口啜ると沖田さんは言った。
「俺を起こした罪責を取ってもらいやすぜィ?」
「え?」
「そうですねェ〜、膝枕なんてどうでしょう?」
黒い笑みをたたえる沖田さんに私はこう答えた。
「別にいいですよ?どうぞ。」
私はパンパンと太腿を叩く。
どうぞ
すると沖田さんは、苦虫を噛み潰したような顔で言った。
「チッ、作戦失敗か。…まだ居るつもりなんですかィ?」
「だって、お茶もお団子も来ちゃったし…私は私のしたいようにするんです。」
そう言って私はお団子を一口食べる。
「仕方ねェですねィ…」
「膝枕、いいんですか?それともちゃんと仕事しにいくの?」
沖田さんはため息をついて横になり私の太腿に頭を乗せた。
私は何食わぬ顔でお茶を啜る。
「ったく、仕事なんてやってらんねェですよ。」
「怒られちゃわない?」
「真面目に仕事なんてしてんのは土方さんくらいでさァ。」
土方さんくらいかぁ…
今ごろ屯所で仕事しているんだろうな。
私は遠くを見つめて会えないあの人への想いを馳せる。
「ったく、みかさんは変わった人ですね…」
アイマスクを再びして沖田さんは言った。
「普通の女は、好きでもねェ男に膝枕なんてしやしませんぜ?」
うん、そうかもしれないね。
「私ね、田舎に妹がいるの。ちょうど沖田さんくらいの。」
「俺は弟ですかィ…」
「ちがうわ、沖田さんは沖田さんよ。」
「そーですか…」
「肩肘張って生きていると疲れちゃうから、時にはこうやって自分の毒気を抜くんだよ。 」
「…それは誰のことです?」
「わたしのこと…かな?」
そう言って私はお茶を飲んでお団子を食べたのだった。
「みかさん、俺の頭に団子のタレこぼさなねェでくださいね。」
「食べる?」
「てか、話しかけてくるんで全然眠れやせん。」
「あはは、すみません、黙っていますよ。」
よしよし。
私は何気なく沖田さんの頭を撫でると沖田さんは黙っていた。
冬の優しい陽の光は、あたたかに私たちを照らしている。
静かでとても穏やかに。
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