マヨネーズ王国の入り口
□甘いモノにはご用心
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「 チョコレイト・ディスコ♪ チョコレイ ト・ディス コ♪チョコレイト・ディス コ コ コ ♪ チョコレイト ・ディスコっ♪」
私はイヤホンをしてキッチンで歌いながら踊っていた 。
というか、休日に間近に迫ったバレンタインに向けて、チョコの試作を作っていた。音楽を聴きながら、義理チョコを実験用として。
出来上がりを味見して私はひとりごとを呟く。
「銀さんは甘いモノ好きだから、これくらいでも大丈夫だよね?」
ちょっとスウィート過ぎちゃったから、あの人のはもう少しビターにしないとダメだなぁ …銀さんは、これで糖尿病進んじゃったりして。
「あははっ」
音楽を止めて、振り返るとトシがそこにいた。
「わっ!!」
うっわ、すんごいびっくりした!
イヤホンしてたから 全然わからなかった…
トシは憮然とした顔でこちらを見ている。
「あれ?どうしたの?来るなら連絡くらい…」
「したよ…」
慌てて背を向けて携帯を確認すると、ちゃんと数件の着信履歴とメールが受信されている。
ヤバい…怒っているかな?
背中越しに感じるオーラがハンパない。
「…ったく、全く応答ナシだから何かあったのかと思ったんだよ。そしたら元気に歌って踊っているじゃねー か。」
え?心配してくれたの?
てか、完全に思いきり恥ずかしい所見られて いたのね……
「うう、ごめんなさいいい。」
私は謝ると膝を抱えてしゃがみ込んだ。
超恥ずかしすぎる…
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珍しく休日が一緒になった。半日だけだが。 最近あまり逢えていないから急に会いたくなり、連絡を取ろうとする。
しかし、いくら連絡を入れても応答ナシだ。
俺はなんだか心配になり、みかの家まで行ってみることにした。
中に入ると、なにやら甘い匂いと歌声が聞こえてくる。
「 チョコレイト・ディスコ♪ チョコレイ ト・ディス コ♪チョコレイト・ディス コ コ コ ♪ チョコレイト ・ディスコっ♪」
ノリノリで歌っている…
フリまでしている…
みかはひととおり歌い終えるとひとりごとを呟いた。
「銀さんは甘いモノ好きだから、これくらいでも大丈夫だよね?」
な ん だ と ?
みかは万事屋のために何かを作っていたというのか?
「あははっ」
よくわからんが、なんだかすごく楽しそうだ…
俺は凹みながらその場に立ち尽くしていると今度は、
「わっ!!」
俺に気付いたみかが驚いて声を上げた。
だから、そのリアクション凹むんだよ…
追い討ちをかけられてショックが隠せない。
「あれ?どうしたの?来るなら連絡くらい…」
「したよ…」
更に追い討ちをかけられた俺はもう…どうすりゃいいんだ。
トリプルパンチを食らった俺は、ふらふらになりながらも平静を装った。
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いやいや、恥ずかしいとかそんな事気にして いる場合じゃあない。
なんだか重たい空気に なっているのはなぜ?
ここはなんとか立て直さなければ!
「ごめんね?ごめんね?」
とりあえずひたすら誤っておこう。
トシは引きつった笑みを浮かべている。
「甘い匂いがする。何か作っていたのか?」
「えーと、チョコを少々…」
「万事屋にか?」
ああ、ひとりごと聞いてたのね。
なんだそういうことか…
「うん。銀さんと新八くんと、いつもお世話になっているから近藤さんと、沖田さんや山崎さんにも… 」
皆さんにです。
「もういい、わかった。」
だって、これ甘すぎたからあなた用じゃあないの。ちゃんとしたの作るからね。
…ってのは内緒なんだけど。
「トシはチョコよりマヨネーズの方が好きなの?」
一応、心配なので確認しておこう。
トシは悩みに悩んだ末、
「チョコも嫌いじゃあない。と思う」
直線的ではないけれど、この雰囲気で、この流れで、マヨネーズ取ったよね?この人ォォ!!
まぁ、マヨネーズの方が好きだと言葉にしなかっただけ良しとしよう。
でもでも「嫌い じゃあない」ってこ とはそんなに好きじゃないってことだよね?
「そっか…」
バレンタイン…どうしよう?
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「ごめんね?ごめんね?」
いや、いいんだ。
勝手に心配してここまできたわけだし。
「甘い匂いがする。何か作っていたのか?」
みかは少し視線を逸らして答える。
「えーと、チョコを少々…」
チョコを、
手作りチョコを、
「万事屋にか?」
チョコとは如何にもアイツが好きそうだ。それをそんなに楽しそうにノリノリで手作りしていたのか。
「うん。銀さんと新八くんと、いつもお世話になっているから近藤さんと、沖田さんや山崎さんにも… 」
って、そんなにあげる相手がいるんかよォォ!!
そしてその中には俺が入っていないのか…
「もういい、わかった。」
「トシはチョコよりマヨネーズの方が好きなの?」
瀕死の俺にそういう質問を投げつけるのか、愚問だ。
だがこの場合はきっと…
「チョコも嫌いじゃあない…と思う。」
ああ…なんで俺は「チョコも好きだ」と言え なかったんだ!
そしてなんで「嫌いじゃあない」と言いきれなかったんだ !
マヨネーズって言うからだァァァ!!!
「そっか…」
みかは俺の言葉を聞くと、なんだか落ち込んだ様子でお茶を淹れはじめた 。
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