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□ふとした優しさ
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私はよく、悩んだり落ち込んだりすると家から少し離れた橋へ行った。橋から川の流れを眺め、水音を聞いていると自然に気持ちが落ち着いてくるのだ。
友達や親と喧嘩した時も、
受験勉強に煮詰まった時も、
初めて失恋した時も、
いつも私の心を落ち着かせてくれるのはこの橋から眺める川の風景だった。
彼と別れてから1ヶ月が経過していた。
私は夜、気まぐれに始めたジョギングの途中、橋の真ん中辺りで自然と足が止まってしまった。
橋から川を見下ろし、私は何も考えずに、ただただ川の流れを眺めていた。
どれくらいそうしていただろうか?ふと見ると、見慣れた人影が近づいてきた。仕事帰りっぽいヒロトだった。
「うわっ!おまえこんな時間になにやってんの?」
時計を見ると11時を過ぎていた。
「おかえりー。こんな時間まで仕事?」
ヒロトは苦笑いをして、
「めちゃくちゃ棒読みな『おかえりー。』だな。なんか自殺でもしそうな勢いの暗さだな。」
と言った。
「そんな事ないよ。」
「なに、おまえ、まだ引きずってんの?」
「引きずってなんかいないってば!」
そう口にしてからハッとした。
そっか…
キッパリスッパリ別れたから、自分ではダメージを最小限にしたつもりだったけれど、意外と傷は深かったのかもしれない。認めたくなかっただけで…ヒロトの言う通りだな。
「都合のいい女にはなりたくなかったんだ。」
ヒロトは「うん」と頷いて優しい声で、
「リエは、ちゃんと言えてえらかった。」
と言ってくれた。
私は涙がこぼれ落ちそうになるのを必死で堪えた。しばらくの沈黙のあと私は、
「あーあ…好きだったんだけどなぁ…」
と、ポツリとこぼしてしまった。
それがきっかけに堪えきれず、ヒロトの前でわあわあと泣いてしまった。ヒロトは私が泣き止むまで黙って側にいてくれた。
「一応女だし、夜だし危ないから…」
ヒロトは余計なことを言って私を家まで送ってくれた。
「ありがとう。なんかこの間から、恥ずかしいとこばっかり見られてるなぁ…」
と私が言うと、
「今に始まった事じゃないだろ?」
とヒロトはさらりと言った。
そうだけど…
私はもう子供ではないし、今さらなんだか恥ずかしい。
「あ、そういえばこの間、妹と目撃したよ!!彼女可愛いねぇ〜ヒヒヒ。おやすみ。」
「おやすみ……って、なにそれ!?いつの話??」
私は言うだけ言ってさっさと家のドアを開けた。
パタンと閉めたドアの内側で、軽くなった心と、幼なじみの優しさが素直に嬉しくて私は思わず照れ笑いをした。
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