ふみ

□瞳
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僕と喜矢武さんは今事務所で暇つぶし。


マネに呼ばれたから来てみたんだけど…急用入ったから別日に変更って連絡入っちゃったし‥。

僕と喜矢武さん以外だーれも居ないの。



『なぁ、鬼龍院‥』

「ぅん?」

彼は机に脱力した両手を乗せ、突っ伏しながら顔だけ此方に向けて僕を呼ぶ。

僕は彼の向かいで足を組んで俯きながら、雑誌片手にチラリと瞳で窺う‥


『誰も来ねーな。』

「‥そだね」

マネが来れないのを知っているのは僕だけ。
嘘を吹くのは胸が痛いけど、喜矢武さんと一緒に居たくて。

「ねぇ喜矢武さん‥今日はコンタクト入れてんの‥?」
『入れてない。』

よし、来た!
彼の黒い地の瞳を拝見できるチャンス!
…いつも見る暇ないからねー。


「喜矢武さん、見て見て。僕の瞳‥」

『なんで。』

「いいから…」

喜矢武さんの両手首を掴んでやり、僕は深い蒼のレンズをはめた瞳で彼の瞳を覗き込んでやる…‥

「…‥‥…‥‥」


彼は眉間に皺を寄せながら、僕を見つめる。

黒い、その色気のある瞳で。

僕は段々と危険だというのが分かってきた…あの、その色々な意味でね。


『鬼龍院、きすみー…』

ゆっくりと瞼を閉じながら僕の決め台詞を言っちゃった彼。

薄ーく開いた唇が僕を待っている…‥。


「…‥‥…‥‥」

喜矢武さん、貴方は憎い人だね。
…僕は我慢したってのに…理性のダムを簡単に決壊させるなんて‥‥


『ごめん。ふざけただーけ。‥トイレ行ってくるよ。』

机に手をつき立ち上がろうとする腕を強く掴む僕。‥ほんの一瞬、彼の身体が強張ったのが伝わってきた。

「いや、行かないで」

『…トイレだし‥』


彼は困った様子で僕を見、訴えかけてくる。


「すぐ帰ってきてよ。」
『‥はいはい…』

腕を掴んでいた手の力を抜いて拘束を解くと、彼は事務所の一室を出、手洗いへ向かった。
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