ふみ

□煙草
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『ちょっと行ってくるね…』

「いってら。」

喜矢武さんは手に煙草を持ち、僕に告げると楽屋のドアを開け喫煙所へ向かった。

僕は軽くソファに凭れて喜矢武さんの帰りを待つ。

「………」

――――――――


あれから10分は経ったのに喜矢武さんが帰ってこない…


少し心配でソファから身を離す僕。
楽屋のドアを開け、喫煙所へ向かう。


…廊下を歩いていると声が聞こえてきた。


『いや、俺は鬼龍院さんの事気にしてないし…』
《えーそうなの?…何時も仲良いし…》

この声は淳くん?…


『そう見えてるだけだよ。…じゃ、俺戻るね。煙草吸い終わったし…』

《あ、うん。》

ぁ…こっち来ちゃう、どうしよ…


焦って少し戻りトイレへ籠もった僕。
…さっき何喋ってたんだろ。喜矢武さんと淳くん。


――――――

『…あれ?鬼龍院さん居ないな‥‥。どこだろ?』

「ぉ…喜矢武さん、戻ってたの…。」



偶然を装って喜矢武さんの後ろから楽屋へ入る僕。

部屋にうっすらと広がった煙草独特の匂い。喜矢武さんの香りだな。


さっきの話が気になって仕方無いんだけど…盗み聞きしたと思われるのは嫌だから、、、


―そんな僕の様子を見て質問してくる喜矢武さん。

『鬼龍院さん、どうしたの…悩み事…?』

「ぁ、何でも無い…よ」

動揺して声が震えちゃう僕。喜矢武さんの顔も見れない…。



『…おい、隠しごとは駄目だろー。なぁ、すきっぱ?‥』

僕の顎を片手で優しく包みクイッと上げる喜矢武さん。

…柔らかな視線が痛いくらいに僕へ注がれてる。

「ぁ、喜矢武さ…ん…」


『なぁーに悩んでんの?鬼龍院さん。』

笑顔を作って僕の耳許に囁く喜矢武さん。



「…ぼ、僕…のこと……、どぉ…思っ‥‥」


僕の後頭部を空いた掌で包み込むと、そのまま頭を引き寄せ自分の胸に埋めさせる喜矢武さん。

…いつの間にか喜矢武さんに抱かれてる僕。



『好きに決まってんだろ…。ばか。…わざわざ言わせんな…そんなの』


「……ん。」

頭上から落とされたこの一言で、先程までの不安は綺麗さっぱりとなくなった。


僕は幸せ者だ……




おわり。



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