ふみ

□指先
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『喜矢武さん、ジュース飲まない?』
「ん、大丈夫…」
『まぁそんな事言わずに…僕、買ってくるから』

「……俺、買ってくるよ」

僕が飲み物を飲まないかと誘った結果、喜矢武さんが外の自販で買ってきてくれる事になった。

…本当は僕が行くべきだけれども、喜矢武さんに甘えちゃお。


『ありがと。お願いするね。』
「おぅ」

喜矢武さんの掌にお金を預け見送る。


喜矢武さんの掌に触れて、胸が高鳴った…。


「…ただいま。」
『ぅぁ、ぉ、…かえりッ…!』

こんなすぐ帰ってくるとは思ってなくて凄まじい勢いで玄関を振り向く僕。

そんな僕の表情を靴を脱ぎながら窺ってくる喜矢武さん。


…ま、喜矢武さんから見ると僕はとても挙動不審な人物に見えてるよね。

「はい、ココア。」

『ぁ、ありがと…』

片手で渡された缶を両手で受け取る。
再び指先が触れ合った…。

「……熱でもあんの?」
『…へぁ?』
何を言い出すんだい?
喜矢武さん。

「いや、熱あんのかな…って。さっき呂律廻ってなかったじゃん。」

あぁ、挙動不審じゃなく熱で呂律が廻らないと思われてたのか。セーフ!

『大丈夫だよ』

「ならいいけど」

喜矢武さんは缶コーヒーのフタを開けると、一口喉へ流し込んだ。

僕もココアを一口流し込む。

『美味しーね』


喜矢武さんが睨み付けるように見つめてきた。

『…ぇ…どしたの。』

「ん、ちょっとね」

僕の掌からココアを抜き取ってテーブルへ置くと、腕を僕の身体へ巻き付けてくる。

喜矢武さんは僕を自分の方へと引き寄せて首許へ顔を埋めた。

『…ぁ…ちょ、キャ、喜矢武さん……どしたの…?』

「別に。」

顔を埋めたまま動かない喜矢武さん。背中に腕は廻されたまま。

どうしたらイイのか解らなくなって背中の腕を解こうとしたとき…


「…さっき、色んなこと考えちゃった?…あわあわしてたし…。」
『ぇ!…』

ゆっくりと首許から顔を上げた喜矢武さんが、勝ち誇ったと言わんばかりの瞳で訴えてくる。


『…ぅん…考えちゃった…』

「素直でよろしい!」

幾人をもオトす笑顔で僕の頭をわっしゃーってしてくる喜矢武さん。



「…俺も心臓悪くしたんだ、さっきココア渡した時ね。」

真面目な顔で指先を弄られながら、この言葉を言われて嬉しいと思う僕。


…余程変態なんだよね。



おわり。
 

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